--歌詞は強いメッセージが連打されていますね。
「そう。頭の中にあったのは『フルメタル・ジャケット』のハートマン軍曹。戦場に向かう人たちに、お前たちを殺人マシンにするんだって叩き込んで、性根をガンガン入れていくアメリカ海軍の人。嫌いな人もいるだろうけど、俺、あの人のキャラクターすごく好きで」
--とにかく言葉が酷いし汚いんですよね。キューブリック監督が字幕の日本語訳を確認して、『こんな優しい言葉じゃないんだ、もっと汚い言葉はないのか!』と直させたという話もあって。
「あぁー、なるほどね。でもそれくらい強烈だもんね。ほんとにプライドもズタズタにするし、価値観を台なしにしちゃう。それがいいのか悪いのかはわからないけども、でも、人にモノを教える時にあの熱はアリなんじゃないのかなって。で、もちろん俺はこの曲を通して誰も殺人マシンにするつもりはないけども、人生においては、こういう教え方があってもいいんじゃないかなって思う。もちろんハートマン軍曹ほど酷い言葉は使ってないけども。でも、そういうマインドがあったかな」
--続いて「I Don’t Care」。これはメロディックのファンが「うわ!?」って思う最初の曲になるでしょう。グレッチのイメージと直結したナンバー。
「そう。グレッチ持って最初に作った曲かもしれない。もう単純にこういうサウンドをやりたくて。でも今までの曲と一緒に並べた時のことも考えつつ、どうやったら自分たちらしいロカビリー・スタイルが作れるかなって。サイコビリーとはまた違うけど、ハードなロカビリーだよね。俺、もちろんストレイ・キャッツは好きだけど、リヴァレンド・ホートンヒートとか、あとはネオロカと呼ばれるあたりに好きなバンドが多くて。ロカビリーをハードに再解釈してる人たちというか。そういうのを自分でもやりたかった」
--ロカビリーって、型にはまる音楽でもあると思うんですよ。違うビートとかコードなんて誰も使わない。健さんも、まずその型にはまって、それから考える感じですか?
「うん。曲の構成とかコード使いは、ちゃんとロカビリーのマナーに沿ってると思う。ただ、そこにどういう気持ちを乗せるか、どういった音像でやるのかは、たぶんそれぞれのバンドの力量にかかってくるんだろうな」
--そこで問われるものは何でしょうね。
「……難しいな。でも日本人には想像できないくらい、ロカビリーってパンクバンドの血にもなってるんだよね。ロカビリーはロカビリーとして切り離されてない。実はゴリラ・ビスケッツがこういう曲調をよくやってる。それこそ「スタート・トゥデイ」っていう代表曲とか、跳ねるビートなんだよね。CiVにもそういう跳ねてる曲があったり。海外のハードコア、メロディック・パンクの中でもロカビリーはすごく大事なエッセンス。ファッションもそうだけど、それがクールとされてるところは今も絶対ある。ハイスタがワープ・ツアーとかで海外に行ってた時、俺にはそれがわかんなかったの。でも今考えるとすごく大事なんだなぁって。そういうところをけっこう見てたかな」
--なるほど。次の「Maybe Maybe」。これはメロディック・パンクのど真ん中。
「うん。これ後半にできたけど、これ作ったことで、どれだけメンバーが喜んだか。っていうかホッとしたことか(笑)」
--メロディックの中でも、特に横山健「らしい」曲ですからね。新境地の曲が多いぶん、こういう曲でらしさが際立つっていうのは今回の特徴で。
「あぁ、それは自分でもそう思う。これでひとつもメロディックがない、横山節みたいなものが全然ないアルバムだったら『あーあ……行っちゃったなぁ』って言われるんだろうけど。でも「Maybe Maybe」なんて絶対に横山節だと思うの。こういう曲があることで、この曲も、他の曲も引き立つっていうのは確かにあると思う」
--歌詞はかなりパーソナルで。奥さんに向けたものだと解釈できますけど。
「いやっ……書いてるうちにそうなっちゃったんだけども、ほんとは違うの」
--いい話から始まったわけじゃないんだ(笑)。
「ないの(笑)。ただね、人に感謝の気持ちを表明したことが、俺、実はないなぁと思って。初めて“サンキュー”から入っていった。だから歌詞は、当然奥さんを連想させるものではあるけれども、違う人のことも含まれていて」