--今回のシングル『I Won’t Turn Off My Radio』。特に表題曲は、もともとの横山健らしさと、今のロックンロールへの興味がうまく交じり合った一曲ですよね。
「うん。これは昨年の秋に作ったんだけど、曲自体はすごくシンプルなコードの組み立てで。サビもね、実際は4つ使ってるけど、弾き語りでやるならコード2つだけで歌えちゃう曲。でもそういうシンプルな……ロックンロール欲っていうのかな? そういうのが出てきちゃった曲だと思う」
--パンク・アティテュードは常にあるとして、そこに入ってきたロックンロール欲は、自分をどのように変えるものでした?
「難しいな……。まずね、自分のパンク・アティテュードっていうのは、ジョー・ストラマーの真似をしてるわけじゃないの。やっぱり東京で生まれた40代の男として等身大のことを、なるべく歪められることなく出す。それが結果的にインディペンデントで、ユニークであれば理想だけど、ともかくそれが俺のパンク精神だと思っていて。だからパンクパンクと言いつつ、別にオリジナル・パンクの人たちの思想を借りてるわけでは全然ない。たまたま似てるなって思うだけで。でね、話したことはないんだけど、たぶんエルヴィスも似てるんだと思うの」
--ほう(笑)。
「なんでクラッシュがああいう音を鳴らしたか、ピストルズがああいう音を鳴らしたかを、好きだったら考えるでしょ? で、ピストルズ、クラッシュ、ダムドあたりのアティテュードをパンクと呼ぶようにはなったけれども、ビートルズだって、その前のエルヴィスだって、ジョニー・キャッシュだって同じようなものは持ってたと思う。パンクっていう言葉は、ある年代に、わかりやすくひとつの形に落とし込まれたもの。でもいつの時代も尖ってる人はいて、そこに影響を受けてさらに尖ったものを作る人たちがいた。その単純な構図を、ロックンロールを聴くことによってすごく考えるようになったかな」
--なるほど。パンク・アティテュードは突き詰めれば自分自身に行き着く。でもロックンロールを見つめることは、先人の音楽と、そこにあった生き方を想像することになる。
「そうそう。なんでこの人はこうしたのかってね。エルヴィスが50年代にギター持ってテレビに出て、腰をクネクネさせることがどれだけ卑猥だったか」
--下半身は絶対テレビに映せなかったそうですね。それぐらい衝撃的で問題視されたのがエルヴィスだった。
「そう。どれだけタブーだったのか。ほんとに型破りだったんだと思う。だから袖にフリフリつけてラスベガスで歌ってたオジサンじゃないんだよ(笑)。そこを汲み取りたいし、そこから派生したフォロワーや文化にも魅力を感じる。……これ俺が話すよりも、音楽ライターさんが原稿で歴史を説明してくれたほうがよっぽどわかりやすいかもね。自分でも説明つかないの。俺のロックンロールとは、っていう感覚」
--でも、楽しいでしょうね。そこは想像できる。
「そう! もう今までにない感覚なの。45年間生きてきて30年ギター弾いてるけど『うわっ、俺はなんでここに気付かなかったんだ!』って思うことがほんとに多い。それはこの箱モノギターを持ってから感じたこと。でもこのギターにハタチの時に出会ってたら今の俺はいなかったわけだし、もっとベタなロカビリーおじさんになってたかもしれない。そしたら自分の魅力は発揮できなかっただろうから、これはこれでいいんだな……っていう自問自答をね、夜な夜な換気扇の下でタバコを吸いながらやってる(笑)」
--あの、不躾なこと言っていいですか? ギタリストって単純ですよね。
「あはははははは!」
--モノ言うパンクスとしての横山健、ピザオブデス代表の横山健は、今の世の中とか自分のポジションを確認しながら常にいろいろ考えている。でもギタリスト横山健っていうのは……。
「ものすっごく単純(笑)。確かに。モノ極める人って単純なのよ」