-- モーターヘッドはわかるんですけど、バッド・ブレインズはどのあたりですか。
「レゲエが入ってる新しさも当時はあったけど、俺にとって大事なのはそこじゃなくて。もちろんレゲエも嫌いじゃないよ。ただ、バッド・ブレインズって、パンク・ロックの野蛮でチンピラな感じ? それがグワッと凶暴になったような歌詞とサウンドで。あの凶暴性とか瞬発力は俺にとってすごくハードコアなの。だから、どんどんポリティカルになっていけばいいとは思ってない。モーターヘッドもそうじゃない。『ロック、酒、女、イエー!』みたいな、あの悪さはけっこう好きだし。あとはバッド・ブレインズの野蛮さ。最初はピストルズみたいだったのに」
-- ピストルズの完コピみたいな初期音源がありますよね。それが、なぜだか勝手に狂気みたいなものが入ってきて……。
「そう。いきなり暴走し始めるんだよね。俺もハードコア聴くまでは初期パン聴いてたから、その、自分が加速していった感じっつうの、すごくよくわかる。 GAUZEとか速い曲聴くようになって『うぉー!』って勝手にスピード上がっていくような。あの初期衝動っつうか、野蛮さ、バカさ、チンピラ具合とかも含めて『知らねぇよそんなもん!』ってテーブルひっくり返すみたいな。そういう部分も自分の中では忘れたくないっていうか、けっこう大事だった」
-- あぁ、その3つがスラングの軸になっているって、意外と知られてないですね。でもすごく重要。
「うん。今はまた俺こういう格好になってるから、バッド・ブレインズの話をしてもピンと来ないのかもしれないけど。でも、あのバンドから頂いてるものは多い。ちょっとしたリズムの展開とかもね」
-- あと、スラングの強みのひとつは、ギターでしょうね。KIYOさんはハードコア畑の人間ではないし、ギターソロが全曲で凄まじい。
「俺、なんか知らんけど昔からなるべくギターソロ入れようとするからね。KIYOは、ルーツで言えばアイアン・メイデンとブラック・サバスじゃないかな」
-- ハードコア原理主義でいえば、ソロって不要ですよね。
「そうだけど、なんだろう? 全然意識してないんだけどスラングの最初からソロみたいな部分はあった。リップ・クリーム好きだったから、その影響だと思うんだよな。で、俺的には全然アリなの。ソロでもツーバスでも、聽いて良かったらそれでいい。意味がないならいらねぇっていうのはわかるんだけど、そうは思わないから」
-- 今回は特に音の分離がいいから、それぞれの技術がどれだけ凄いのかが如実にわかります。パンクとかハードコアも、本気でやっていけばシンプル・イズ・ベストだけでは持続できないんだなって思う。
「たぶん、そうだと思う。だから長続きしないバンドが多いんだと思うし」
-- あとは、怒りが続かないっていうのもありますよね。本気で怒れば怒るほど、本気で虚しくなる世の中だから。
「あぁ。そうかもね。俺いっつも腹立ててるけど(笑)」
-- 想像できないけど、明るいパーティー・チューンとか、ノリノリの歌を作ってみたいっていう気持ちはないですか。
「……どうだろう? 怒ってないロック、っていうのが想像できない。もちろん聴くぶんにはね、マーフィーズ・ロウとか、ガキの時からトイ・ドールズとかOiとか、ああいうポップなのも嫌いじゃなくて。だから楽しいのはわかるし否定もしないけど……性格じゃない? やっぱ、そうやってワーッと楽しいこと歌える人って、打ち上げみたいな場でもそういう人物だと思うのね。盛り上げ役みたいな。俺、自分がそういう人間であったことがないから、ある意味すごい憧れるんだけど。でも、俺が同じようなことやってもドン引きされて終わりだと思う(笑)」
-- サウンド・スタイルは努力と成長によってキープしていく。では、怒りという感情はどうでしょう。自分はハードコアをやっているんだから、という意思に基づいたものなんですか。
「いや……単純に負けず嫌いだから(笑)。ただの性格だと思うよ。ほんと俺、毎日腹立ってしょうがないから。なんでみんなこれに怒んないの? って思うことばっかりだもん。もちろん『みんな気づけよ! みんなで怒ろうぜ!』って騒ぐことはしないよ。時間の無駄だから。やんない奴にはもう何言っても届かないっていうのもわかってる。だから、気づきたい奴は気づけ、知りたい奴は知れ、勉強したい奴は勉強しろって思うだけかな」
-- そのためにスラングの作品がある、という言い方もできますか。
「うん。歌詞はもっと乱暴に完全に言い切ってるけどね。勉強とか情報共有の投げかけって意味でいえば、ツイッターやフェイスブックがそういう場所。で、歌詞は結論。俺の考える極論。それでいいと思ってる」
Vol.02 へ続く
Interview by 石井恵梨子