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Review.02 石井恵梨子

スラッシュ・ハードコアの快感を、ものすごいアドレナリンが猛スビードで押し寄せて日常の景色など何もかも吹っ飛んでいくような興奮、と定義すれば、まさしくレイザーズ・エッジはそのド真ん中を走り続けているバンドである。この音楽を浴びている間だけは無敵になれる、最強になれると考えるファンは多いだろうし、今や不動となったメンバー4人が誰よりその自負を持っているはずだ。

ただ、それぞれに仕事を持ち、父親の顔さえ持っているメンバーたちは、みんなと同じような日常を生きる常識人である。面白くないことも、我慢や苦悩もあって当然。では、そんな日常をブッ壊すためにバンドをやっているのか、レイザーズは憂さ晴らしなのかというと、これもまた違う気がする。

現体制なって10年、バンド自体は19年。もうみんないいオトナで、十分わかっているのだと思う。日常=つまんない、では決してないことを。仕事は考え方次第で面白くなるし、生活には喜びも愛情もたっぷりある。世の中を見れば腹の立つことは多いが、知らねえと背を向けていては何も変わらない。体力も気力も知力も充実している今、彼らの日常はとても「詰まった」ものになっているのだろう。知らないくせにこれだけ書けるのは、『RAW CARD』の音が、そういった感覚とぴったりイコールになっているからだ。

前作までのレイザーズ作品は、いかにライヴハウスで一体になれるか、全員で楽しめるかというポジティヴな面が強調されていたが、今回はもっとパーソナルだ。閉じているという意味ではない(僕の根っこが明るいから曲が明るいんです、と笑うKENJIは今まで閉じた作品など作ったことがない)。ただ、みんなのためでなく、あくまで自分たちの足元から発信しようという前提があったのではないか。自分たちの好み、自分たちの見た景色、自分なりの意思表示と音楽観。5年7ヶ月ぶりというスパンも関係しているのか、改めてレイザーズ・エッジの根幹に立ち返ったような激しさと楽しさと放埒さが溢れかえっている。最も明るく響き渡る16曲目が「素晴らしいPUNK」というロックンロール・ナンバーで、続くラストが「WE ARE RAZORS」というのも、ラモーンズばりの威風堂々。小賢しい変化球アピールなど今さら不要、ただ自分たちの今の姿を出せばよいという自信を感じさせる。

そして歌詞。日本語が多く、政治的な主張も増えているのは大きなトピックだが、それは驚くべき変化というより、今この日本で生きている人間なら当然感じていること、ましてやパンクスを自負するなら叫ばずにいられないことだろう。次のテーマは反戦・反核にしましょう、ではない。ニュースを見ていて口をつく言葉が「アンポンタン!」で「嘘つき!アチョー!」なのだ。可笑しさと鋭さのギリギリを突く言葉選びはもちろんのこと、普通の会話と英単語を音にどう乗せていくかというセンスも秀逸。もう、これはKENJI RAZORSの人柄だろう。

そう、改めて感じるのはKENJI RAZORSという人間の面白さなのだ。くそったれ、ボケ、こざかしいわ、と連発しながらこんなに楽しそうに見えるシンガーは他にいない。また考えてみれば、信じられない猛スピードの中に身を置く興奮が、彼にとってはもう人生の半分以上を占める「日常」なのだ。それでいて、会ってみれば常識人。なんかこれってすっごく変なことじゃないだろうか。20年目を目前に届いた『RAW CARD』。これぞレーザーズ節といえる楽曲が満載のアルバムを前にして、なぜか急に背筋が寒くなった私である。

Review By 石井 恵梨子