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Review 03 / フリーライター:小野島 大


久々に脳天にビリビリ来た。

スピーカーから焦げ臭い匂いが漂ってくるような、抜き身のナイフが閃くようなヤバい空気がたまらない。ギリギリに切羽詰まったような緊張感、なにかに追い立てられるような焦燥感、すべてを巻き込んで燃え上がるような熱量の膨大さに圧倒されてしまう。

さらに、物凄い勢いで吐き出されるおびただしい歌詞が、いっそうスピードを加速する。譜割や言葉の選び方、リズムへの乗せ方が抜群に面白い。ひとつひとつニュアンスを持った言葉が、常軌を逸した勢いと情報量でぶちまけられると、表面的な意味とは別の風景が立ち上ってくる。言葉は平易だが、ルーティンな定型表現はひとつもない。すべてが生々しく響いてくる。よくあるオプティミスティックなロックンロール・アンセムではなく、息苦しくて息苦しくて耐え難いほどのかったるい日常と、そこからブレイクスルーしようとする意志のむやみやたらな爆発だ。エモーショナルだが感傷的ではなく、即物的だがイマジネイティヴで、べたついた共感も拒絶して乾いた叙情を漂わすセンスは、ある意味で日本語ロックがたどり着いたひとつの成果ではないかという気すらしている。

彼らの出身地である長野という土地については通り一遍以上の知識はないが、ここにギチギチに詰まっている焦燥感と、孤独と憎悪と狂気と苛立ちと暴力衝動と愛が織りなすカオスは、日本の均一的な都市化とスラム化という現象と無縁ではないだろう。「取れてしまった俺の心臓 取れてしまった俺の脳味噌 取れてしまった俺の心臓と胃袋と脳の中身 頭が痛い 中身空っぽ 頭を撃ってブッ殺してやる もうここにはいたくない」(「ビューティフルドリーマー」)という言葉のはらむ空恐ろしいほどの孤独と喪失と絶望の念は、日本という国をべったりと覆い尽くす影なのだろう。

今回のアルバムを聴くまで、彼らのことは知らなかったし、残念ながらまだライヴを見たこともないが、ライヴでのエネルギーが容易に想像できる音でもある。こういうバンドを聴いていると、ロックンロールの可能性というやつを大まじめに論じたくなってくる。速度、強度、そして「気合」が大切なのだ。ロックンロールの神様は、時々こんな放蕩息子を生み落とす。彼らのロックが若気の至りではなく、結成して9年というキャリアの過程で完成され研ぎ澄まされていったことがなにより素晴らしい。さらに10年先もこのテンションで加速し続けてくれれば、間違いなく歴史に残るバンドになるはず。

推し曲 M④「ビューティフル・ドリーマー」
フリーライター 小野島 大