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フリーライター石井恵梨子の
酒と泪と育児とロック

Vol.22

Vol.17がそうだったように、今回も特別インタビュー編。ロストエイジ・五味岳久さんに登場願いました。ツイッターでも有名な人ですね。

ニューアルバム『In Dreams』は、この配信時代に逆行し、CDオンリーのリリース。しかも流通会社を通していないため、ライブ会場か、奈良市にあるTHROAT RECORDS実店舗か、そのオンラインショップでしか買えないのです。発売前にサンプルが配られることもなく、MVを始めとするプロモーション活動もまったくありません。

普段、サンプル音源を先にもらえるのが“当たり前”になっている私は、自分の立場を疑わざるを得なくなります。“当たり前”ってなんだ? そしてアルバムの購入ボタンをポチリ。後日、作品が届き、そこには五味くん直筆の手紙が添えられていました。なんだか想像以上に嬉しくて、音を聴きながら居ても立ってもいられず「取材させて欲しい」とメールを送信。返ってきた返事は「交通費は出すんで、奈良に来てくれるならいいですよ」。なんでも東京発信という“当たり前”も、ここであっさり覆されるのでした。

初めて訪れたTHROAT RECODSは、こじんまりした、とても魅力的なレコードショップ。頂いたコーヒーを味わいながら立ち話のように始まったインタビューには、楽しさと充実感、そして、夢がいっぱいありました。

一一今回、業界批判みたいなインタビューにはしたくないんですよ。それを前置きした上で聞きますけど、なんでこの手法なんですか。

五味:や、なんでって言い出すと……結局は業界批判みたいになんねんけど(笑)。今まで自主でもメジャーでもやってきたけど、なんか「こういうことにお金使う? この工程ってほんとに必要か?」っていう違和感を感じることが多くて。自分でレーベル立ち上げてからは、流通に乗せて規定のパーセンテージ納めてきたけど、やっぱ「これずっと続けるの気持ち悪いな」って思うようになって。このバランスでお金使い続けると活路が見出せんというか。そこを整理した結果ですね。どこまで全部自分でやれんのかっていう。

一一メジャーから離れて独立したのが数年前、そこからさらに無駄を省いてスッキリさせたと。

五味:そう。もっとお客さんと近づいた感じかな。店で直接売ってるじゃないですか。この店は今年で5年になるんですけど、お客さんの反応も直接見れて、自分のバンドが好きな人の話も直接聞けるし、すごくいいなと思ったんですよ。やりがいもあるし。「この感じを、次のアルバムに全部ぶち込んでどれくらいやれんねやろ?」っていうのが大きかった。

一一レコードショップに、バンドとはまた違う実感があった?

五味:そうそう。たまたま入ってくるお客さんたち。昔レコード集めてたおじいちゃんが「これもう聴かんから」って持ってきて、その中にけっこう値の張るやつが混ざってたりして。僕も興味出てくるし話すじゃないですか。あとはお父さんが渋谷系好きだったらしくて、その影響でサニーディ・サービス聴いてるっていう中学生が遊びに来たり。そういう人たち、放っといたら僕らのライブ来ることないですから。どんだけプロモーションしてもね。でも店があるからここで話して混じり会える。毎日めちゃくちゃ出会いに恵まれてる。

一一そこからバンド活動に還元されたことって何かありますか。

五味:ライブのMCとか、自分の気持ちの持っていき方が変わりましたね。昔は「誰かわからんけど、人は目の前にいっぱいいる、何か言わなあかんから言う」って感じで、告知とかしてましたけど。今はもうちょい人に話しかけてるなって思う。個人個人に、自分が思ってることを話しかけてる感じがして。だから喋りが長くなったし、けっこう話す時間を大事にするようになった。音もそうですね。優しくなったっていうか、ポジティヴな感じ。売り方は閉じてますけど、音は逆に開けたっていうか。開くことに抵抗もなかったし。

一一耳に痛いノイズとか絶叫が必要ない、すごく生活に密着した音だと思う。悪い言い方をするなら地味でもあるなと思うけど。

五味:うんうん。でもこれを続けていくのであれば、変に派手にする必要もないし、日常と地続きのものが出てくるのが自然やと思う。そういう音楽が聴きたいしね、今。あんまり作り込まれたエンタメ性って、もちろんいいんだけど、俺が思ってる音楽とは違うっていうのがわかってきた。結構いろんなとこで言うてますけど、農家の人が野菜育てて、収穫して、売るじゃないですか。そういう感じに近づいて行ってる。そろそろ曲できたしアルバムにしようってレコーディングするのが収穫で、それを地元の商店街で売って、街の人に買ってもらう。そういうサイクルを作って上手く回していきたいっていうのはありますね。「別に売れんでいい」とは言わないし「何かのはずみで売れたらいいな」って冗談で言ってますけど、もっと「この枚数売ったら生活回るから、そこ目指していこう」っていうところを見てますね。

一一多くのロックバンドには、やりたいことを曲げないまま、信念も変えないまま、ドーンと世に出ていく、世の中のオセロ全部ひっくり返してやる、みたいなロマンがあると思うんです。それは大なり小なりどのバンドも持ってると思うけど、五味くんに今そういう気持ちって……。

五味:まったくないかもしれないですね。その「世の中をひっくり返す」っていう言葉? 世の中って何なんやろう、っていうのがまずあって。

一一はははは! まぁ実際は幻想なんだけど(笑)。

五味:変えたいもんはあるんです。それは漠然としたものじゃなくて、個人の価値観とか、音楽への考え方とか、表現に対する思いとか。そういうところにアクセスしたいし、そういうものを変えたいとは思う。それこそテレビでしか音楽聴いたことない人に「こういうやり方の人もいるんや」って気づかせたいし、開けたことのなかったドアを開けるみたいなことはずっとやりたい。でも「世界をひっくり返す!」とか、そういうのはないですね。

一一そうやって五味くんが選び取ったリリース方法は、閉じてると同時に、すごく挑発的にも見えるんです。これはどこまで意図してます?

五味:うーん……気づいて欲しいから、っていうのはありますよ。このやり方で普通に黙ってると無視されるんで。ある程度、ちょっとシステムに喧嘩売ってる感じ、そこは見せていかないと。リリースして売ってる以上は無視されたら意味ないんで、気づきのきっかけとしてちょい毒混ぜとく、みたいな。それが僕のスタイルというか。そこまで悪意はないですけどね。でも「こういうやり方もあるぞ」って言いたいし、認めさしたいんですね、漠然とした大きな力に。誰が嫌いとか誰を批判したいとかじゃなくて、俺のやり方が、何かを考えたりするきっかけになれたらいいなって。

一一五味くんが何か問題提起をするたびに、「自分は本当に音楽が好きなのか?」を試されている感じがします。

五味:あぁ。でもそれは僕が自分にいつも問いかけてることでもあって。自分は本当に音楽が好きなのか。チケット代の設定とかも自分でやるじゃないですか。自分がやってるライブ、ほんまにこの金額でいいのか。みんな時給いくらで働いてんねやろ? 労働時間で考えたらだいたい3~4時間分のチケット代で、演奏は一時間とか二時間とかで。それでこの金額もらっていいのか? みたいなことはよく考えますね。「それって音楽が好きな人のやることなんかな?」とか、そんなことばっか考えてます。

一一私も考えざるを得なかった。もちろんアルバムが送料も含めて適正価格だと思えたから買ったけど、普段はそんなことも考えないままサンプルが届くっていう、生ぬるーい状況だから。

五味:僕もね、店始めてからサンプルもらう機会が増えたんですよ。レーベルもやってるから、出してくれとは書いてないけど、それっぽいことを匂わせる手紙が添えてあったり。でね、それをめっちゃ聴き込むこと、正直ないんですよ。聴いても一回か二回。気に入ったら仕入れて売ったりはするけど。タダで貰ってしまうと、その音楽に対する思いって違いますよね。それこそ自分が小遣いで買ってたCDとはまったく聴き方が違う。「俺、もうそこには帰れへんのかな?」って思うし、その感覚が本当になくなったら俺ちょっとやばいなと思って。じゃあ自分のアルバムでそこに立ち返ろうと。自分もあの感覚に戻れるし、買った人もそういう気持ちに戻ってもらえるかもしれないし。

一一でも、時代的にCDは不要になっていくし、音楽がどんどん無料化していくのも止められない。そこはわかってますよね。

五味:うん。これも、どうせネットに出るんですよ。YouTubeとかに静止画像で(笑)。出るのもわかってるし、その流れは止められないけど、そこはもう切り捨てようと思ってる。そういう聴き方をする人に「アルバム買ってくれ」って言うのは無駄やし、無料で聴きたい人たちのこと構ってる時間はもうないんですね。あとは僕らの場合、お客さんの年齢も上がってきてるから、中学生みたいな聴き方もしてないでしょうし。ちゃんと音楽に対価を払ってくれる人たちと、どうやって付き合っていくか。それを考えるようになりましたね。

一一「それじゃあ広がらない。それは狭い村社会じゃないか」って言われたら、どう返しますか。

五味:それでいいんじゃないですかね? 別に、広げることが正義ではないと思う。他のジャンルの仕事を見ててもね。だから、ローソンなのか町の専門店なのかっていう違い。どっちの良さもあるし。ローソンの人に「いやいや、その店、駅の前にしかないやん」って言われても「そらまぁそうやんな。俺一人でやってるし」って言うしかなくて(笑)。別にそれでいいんじゃないですかね。何をもって成功とするかは人それぞれ違うし。もちろんメジャーのレコード会社の人が俺みたいな考え方やったらダメですよ? 僕は違うから。「村社会に生きてます」って言えるし、この村人たちと俺は上手くやっていく。そうやって閉じることにもあんま抵抗ないかな。でも音楽の力は信じてるんで。この閉じた村の中でもね、ほんまにいいものであれば、その村人たちから広がっていくんですよ。たぶん……いや絶対。だから僕のやり方は閉じてますけど、音楽は閉じないですよ。まだまだ広がっていくと思うし。そこは音楽に任せた。

一一「I told.」に、そういうメッセージを込めた歌詞がありますね。この曲にある〈引き返そうかと少し迷った/とりあえずこのまま〉っていうのは、ロストエイジが辿ってきた道そのものでもあって。

五味:僕の座右の銘みたいなもんですよ。とりあえず行ってみる、無理かもしれんけどやってみるっていう。それでなんとか、今のところなってるんでね。それは僕がロックの先人たちから学んできたことで。いろんな人が言うてますけど「スタイルだけを真似するな」「もっと根っこの部分を掴み取って、お前なりのやり方でやれ」って。自分もずっとそうなりたいと思ってきたし、自分のやり方を探して、実践して、今ここに居るんで。それこそ通販のやり方とかもイアン・マッケイに教わった。ドキュメント映画の中で、レコード・ジャケットを自分で折って、折り方をレクチャーしながら「千枚発送するんだ、これぐらい余裕だ」って言ってて。めっちゃ格好いいなと思って。俺も通販でイケる、一人ずつ手紙書くぞと思って……やってみたらめっちゃしんどかったですけど(笑)。全然余裕じゃなかった(笑)。でもたぶん、俺も、訊かれたら「これぐらいイケる」って言う。絶対言うと思う。

一一今のロストエイジ、ほんと格好いいですよ。あと今日ね、ここに来るまで、私すごく楽しかったんですよ。新幹線乗って京都から乗り換えて奈良まで来る道中、ずっとワクワクしてた。

五味:あぁ、「あいつ、ほんまに奈良にいんのかぁ」みたいな?

一一そうそう。「なんの媒体もないけど、今から奈良に行って五味くんと話せるんだなぁ」みたいな。で、これってすごく大事なことだなと思った。

五味:そうですよね。お客さんでも関西方面のライブに行って、その流れでここに寄ってくれる人がいるんですけど、すごい楽しんでくれてる感じがする。それって音楽に導かれてるわけじゃないですか。言ったらそれだけ時間とお金もかかるけど、そうやって音楽に導かれて動けたりするのって、最高ですよね。そこに夢ってあるなと思うんですよ。もちろんネットも便利ですけどね。それがあるからこそ現場で会えることの価値が際立つというか。

一一こういう店があるだけでも奈良に行こうって思うきっかけになるし。あとは絶対地元シーンの活気みたいなものになってると思います。

五味:なってるかなぁ? でも、みんな音源できたら持ってきてくれますね。僕も、地元のバンドの作品はもう無条件で何枚か買い取って売るようにしてるし。あと若いバンドと「デモを作ってみたけど、どうやって売ればいいと思いますか」みたいな話もよくするし。今の奈良ってね、エイジ・ファクトリーが代表みたいに言われてますけど、岡崎体育ってやつがよく来てたんですよ。

一一そうなんだ! 奈良の人なの?

五味:あいつね、めっちゃ奈良寄りの京都。こっからバイクで行けるようなとこに居たんですよ。ネバーランドがホームみたいな感じでライブもやってて。で、物販のちっちゃいバッヂ作るマシーンとかあるんで「ちょっとそれ貸してください」とか言って、ここであいつ、物販のバッヂ作ったりしてたのに。……もう売れたらまったく来なくなった(笑)。

一一はははは! 書いておきます!

五味:ほんま書いといてください(笑)。いや、いい奴なんですけどね。

一一なんだかんだ言いながら、楽しそうですね、今。

五味:そうですね。楽しい。音楽のことに関しては全然ストレスないです。ただ、言ったらバンドだけやってたらいい立場じゃないから、そこ全部やらなきゃいけないのはけっこう大変で。それが仕事やから当たり前なんですけどね。だから、仕事いっぱいして、自分のやり方考えて、人とコミュニケーション取って、作ったものを売って、店に立つ。そして、ライブでステージに立つ。今はそういう感じです。


【LOSTAGE プロフィール】
五味岳久(B&Vo)、五味拓人(G)、岩城智和(Dr)によるスリーピース・ロックバンド。2001年、五味兄弟を中心に奈良県にて結成され、2004年にUKプロジェクトより『P.S. I miss you』でデビュー。90’Sオルタナティヴ/ポスト・ハードコアの精神を受け継ぐバンドとして高い評価を得ていく。その後メジャーレーベルから3枚のアルバムをリリースするも、ギタリストが安定せず、現在のスリーピースに落ち着く。2011年からは自主レーベル「THROAT RECORDS」を設立し、五味岳久はレーベルと同名の中古レコードショップを奈良市にオープンさせる。地域密着/地元発信にこだわりながら活動を続け、自主企画イベント「生活」も主宰。7枚目のアルバム『In Dreams』はTHROAT RECORDSの実店舗とオンラインショップ、ライブ会場のみで販売中。
http://throatrecords.tumblr.com

LOSTAGE「In Dreams」

【新作情報】
LOSTAGE「In Dreams」
( CD作品 / 2600円税込 )  購入先はこちら »

【収録曲】
1. さよならおもいでよ / 2. ガス / 3. 窓
4. ポケットの中で / 5. REM / 6. 泡沫の / 7. 戦争
8. I told. / 9. 僕のものになれ / 10. Shoeshine Man

2017.07.03

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