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フリーライター石井恵梨子の
酒と泪と育児とロック

Vol.20

またしてもご無沙汰しております。新学期になり環境が変わり、さぁフレッシュな気持ちで歩んでいくぞと決意したけれども、しばらく経てば「あれ、そうでもない」という事実に気づいてしまい、今ちょうど五月病になっている方も多いのでしょうか。

なんでそんな憂鬱な話から始めちゃうんでしょうね。失礼。ともあれ新学期。ウチでは、ボウズこと下の息子が小学校に入学しました。

歩くようになってすぐ、窓の桟に激突し、ボクサーみたいに目蓋をざっくり切ったのが一歳半。滑り台のてっぺんから謎のダイブをかまして転落したのが二歳の頃。三歳になるとカラの浴槽に飛び込んで額をぱっくり割り、五歳になったら自転車のスピードを上げたまま看板に激突、DVを疑われるようなドス黒い痣を左目に作っていた……というのが彼のざっくりしたヒストリーですが、こんなふうでも小学生になれちゃうんですね。親がびっくりしています。

上のムスメは3年生に進級です。さすがに遊び方や言葉遣いも変わってきますね。特に男子の変化はすごい。幼稚園時代は甘ったれで有名だったフジくん(仮名)が、一丁前に「うるせぇバカ、ぶっ殺すぞ」などと口走っているのを見ると「ほほう、キサマいつからそんな口を……」と舌打ちしたくなりますね。また、幼馴染であるケンタくん(仮名)とコーシンくん(仮名)がコンビニで買ったカップ麺を公園で豪快に食べている姿を見かけて「数年前はお互い砂遊びに夢中だったのに……この不良どもめ!」なんて思うことも。そのうち女の裸に興味を持ったり、ワルに憧れたりしちゃうんでしょう。あーあ。いささか残念な気持ちを込めて、私は言うのです。「◯◯くん、大きくなったねぇ」。

「大きくなったね」。誰もが子どもの頃に言われた言葉だと思います。あれは成長を褒めてるんじゃなくて、というか成長なんて自然現象だからそもそも褒めるようなものではなくて、要するに「可愛くなくなったなぁ」という意味なのかもしれませんね。目の醒めるような美丈夫になった場合は「本当に魅力的な大人になって……」という感嘆の気持ちがあるでしょうが、少なくとも小3の世界で、それはない。「大きくなったね」は「チビッコ時代のキミはもういないのかぁ」と溜息するようなニュアンスが込められているのだと思います。

書きながら思うけど、我ながら底意地が悪いね。子供が生まれて親バカになり、とにかく可愛い! ウチの子世界一可愛い! というテンションだった時期は確かにあるのですが、そういうハイな気分が薄れてくると、冷静に思うことのほうが増えてきます。子供って、特に男子って、変な生き物だなぁ。

言葉による説明がとにかく下手(なんでも擬音で済ませる)とか、放っておくとひたすら走っているとか、よくわからないことは多々ありますが、一番理解できないのが、「好きな子に意地悪してしまう」という男子特有の行為。みなさん心当たりありますか? 意地悪とまでは行かなくても、何かにつけてちょっかいを出してしまう。私のムスメは良い子なうえに可愛いので、当然、被害を受けているようです(はい、親バカ上等!)。

特に酷いのが同じクラスのAくん。とにかく娘にまとわりつき、小さな嫌がらせを繰り返す。たとえば、消しゴムを勝手に使ったあげく、ふざけて床に落とす。自分の係の仕事を関係ないムスメにも手伝わせる。一緒にクイズをやろうと言い出しながら、負けるとムスメに「自慢するな!」と怒りだす。漢字プリントの採点をやってやると言い出し、「はね」や「はらい」などにクソ細かいダメ出しをしてくる。クラスの席替えが始まる時は、ムスメのほうをチラチラ見ながら「隣になりたくないヤツがいるな〜」と大声で言う……などなど。

似たようなことを少年時代にやっていた人、ハッとしませんか。そんで赤面して死にたくなりませんか。もうね、Aくんは、どう考えても「嫌われる方向」にしか作用しないことを毎日繰り返しているのです。同性目線でいえば「男ってさ、女みたいに気持ちを素直に表現できないんだ」ということかもしれないけれど、女から言わせると、一言「バカじゃないの???」。

で、繰り返しますが娘は可愛いうえに気立てが優しい(はい親バカ!)ので、強く言い返したりしないのです。私が「文句言えばいいのに」とけしかけても、「傷つけちゃうと思うから、嫌な言葉は使いたくない」と優等生な答え。「じゃあさ、お母さんが下校中にAくんとっ捕まえて怒鳴ってもいい?」「うーん、怖がると思うから止めて」。……なんていうか、オカンだけ好戦的でスイマセン、と反省する瞬間でした。

そんなムスメたちの様子を見ている同級生の中には、ずいぶんマセた子もいます。何するかって、当然からかいますね。「Aくんてさー、あなたのこと好きなんだよ。見てればわかるでしょお?」って感じで。こんな時、真っ赤になって照れたりすれば余計からかわれるものですが、ムスメは「わからない」とニュートラルに答えたそうです。そんな一部始終を真顔で報告してくるものだから、あらためて「Aくんが自分のことを好きだってわかったら、嬉しい? それとも嫌だ?」と質問。返ってきた言葉がこちら。

「……なんとも思わない」

はい、よくわかりますね。今も昔も男子が懲りずに繰り返している「好きな子に意地悪しちゃう」アピール、もう悲しいほどに効果ゼロです。大人になってもなお「気になる子にあえて冷たい態度を取ってしまう」「あえてダメ出しをしてしまう」という男性はけっこう多いようですが、ほんとに、百害あって一利なしだから止めたほうがいい。WANIMAファンもね、「困ってる顔が見たくなった〜」なんて歌ってる場合じゃない。「あえて」やるなら、褒めちぎって、優しくしまくって!

なんか、オカンのコラムだったはずが、身の程もわきまえず恋愛指南みたいになってしまいました。書きながら思ったけれど、どの女もお約束のように口にする「優しい人が好き」って、きっと真理でしょうね。意訳すると「あえて意地悪してくるような奴に好意は抱けない」ってことです。

2017.05.16

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