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フリーライター石井恵梨子の
酒と泪と育児とロック

Vol.19

あけましておめでとうございます。

遅い。しかも前回のコラムから9ヶ月も経ってるし!  いや、コラムの存在を忘れていたわけじゃないんですが、ボーッとしてたら9ヶ月なんてあっちゅーまでした。放っておくと人生もあっちゅーまに終わるね、これ。昨年の幼稚園のバザーで人生初の「ぎっくり背中」(ぎっくり腰の背中バージョン。咳をするだけで激痛が走る!)をやりまして、いよいよ若くない、というか「老い」の二文字がチラつく年齢になってきました。考えたこと感じたことはちゃんと記して残しておかなきゃな、と思います。

お正月は実家に帰りました。石川県金沢市。北陸新幹線の開通以降は駅も繁華街もスタイリッシュに進化していて、なんかもういっぱしの都会って感じでしたね。昔は「クソ田舎じゃ! こんな場所にいられるか!」と思い込んでいたし、実際逃げ出すように東京に来たのだけど、今は「いいところだなぁ。お寿司が美味しいなぁ」なんて素直に言えますね。こういうのも「老い」の始まりなら、それはそれで良いもんです。

久々に地元の仲間とも飲みました。私が18歳まで遊んでいたライブハウス「VanvanV4」のバンドマンたち。いろいろな音楽や知らない世界を教えてくれた「ちょっと上のお兄ちゃん」的存在だった彼らは、嬉しいことに、今もそれぞれ音楽活動を続けています。

そのひとりがte’のギタリストであるhiroこと黒田洋俊さん。……さん、っていう感じじゃないな。ヒロくんと私はお互い高校生の頃から顔見知りで、今でも方言丸出しで会話できる間柄。te’の初代ベースが抜けてレンチの松田智大さんが加入すると決まったときは、「なんでヒロくんが松田さんと一緒にバンドできるん?  ずるい!  羨ましい!」と詰め寄ったくらいです。そしたら彼も「俺もそう思うわー」とにっこり。今でも「ベースで一番格好いいのはレンチの松田さんと、あとマッドの剛士さんやと思う」「あぁ、わかるわかる〜」と、完全にティーンネイジャーの会話になってしまうんですね。地元の同級生って、みんなこんな感じなのかな?  学校嫌いでクラスに友達も作らず、当然同窓会にも呼ばれたことがない私にとって、母校はやっぱりライブハウスです。

また、これは金沢のように小さな街だから起こり得るのだけど、地元の音楽好きはどんな音楽が好きであれ同じライブハウスに集まってきます。金沢には比較的大きい「Eight Hall」というハコもあるけれど、あれは都会の人気バンドが使うもの。地元のキッズは200人キャパのVanvan V4に集まって、そこで見た地元バンドを身近な先輩と慕い、ライブハウスに併設されたスタジオにたむろしながら、ジャンルを問わず同じ部活の先輩後輩のような関係を築いていくのですね。

東京だとこうはいきません。ロックというジャンルの中であっても、ギターポップは下北沢、ハードコアは新宿や高円寺などと棲み分けができあがっているし、たとえば「渋谷のライブハウス」と一口に言っても大小合わせて100軒以上。ひとつのハコがオールジャンルをまとめるサロンになる、なんてことはまずないでしょう。

だけど金沢ならそれが可能です。私やヒロくんが先輩として見ていたバンド(偶然にもリーダーの名前は「健さん」!)はニューウェイヴやV系に近い音楽をやっていて、その後輩にあたるヒロくんはレンチやマッドが好きで、今は轟音ポストロックのteをやっている。そして私は初めてお会いしたのですが、そのさらなる後輩にあたるのがnishi-ken氏。キーボーディスト/プロデューサーで、今やテレビでもよく見かけるガチの売れっ子クリエイター (参照・http://rittor-music.jp/column/melodist/41958)。中学の頃からシンセサイザーに傾倒し、テクノ系ユニットをやっていたというnishi-ken氏も、音楽的な接点は乏しいのに、やっぱり「健さんのバンドとヒロさんのバンド、高校ん時にV4でめっちゃ見てましたわ〜」と言うわけですよ。あぁこれが地方ライブハウスの繋がり方だなと痛感しましたね。

拙著『ライブハウス大作戦〜繋ぐ〜』の取材中、誰もが声を揃えて語っていた目標が「地元のバンドが育たなきゃいけない」でした。「このプロジェクトを支えたのは主にパンク畑のバンドだから、自分もパンク・スピリットを受け継いで云々…」なんて言う人は皆無。突き詰めれば、ジャンルなんて何でもいいんでしょう。やりたいのであればメタルでもV系でもテクノポップでも弾き語りでもOK。とにかく、そのハコを拠点として音楽活動を始める若者たちがどんどん出てきて欲しい。それは「シーンを作る」みたいな計画とは似て非なるもので、もっとわかりやすい話。せっかくライブハウスというコミュニテイがあるんだから、あとはお前らがここで一生の仲間を作れよ!  ってことです。

事実、お正月の飲み会では、みんなただの仲間となって馬鹿騒ぎできました。初対面の人も多かったけど、「Vanvan V4で遊んでいた」というだけで打ち解けてしまう。さらに地元ゆえ「中学どこ?」「◯◯中」「わ、ウチの嫁さんもそこ!」「まじでー!」みたいな与太話でガンガン盛り上がってしまえる(どうでもいいけど、小学校や中学校が一緒というのは、なぜあそこまでバカウケできるネタになるんでしょう?)。そして、前述のnishi-Ken氏からびっくりする話が飛び出してきました。

彼には中学校から一緒で、今でも仲良しの幼馴染み、ヤスタカくんがいます。ちなみにヒロくんの弟もヤスタカくんと同じサッカーチームだったそうです。そのヤスタカくんはnishi-ken氏と同じ時期に音楽に目覚め、10代の頃からキーボードとパソコンで音楽を作り出したそうです。高校の頃に作ったデモテープはVanvan V4に置かれていて、それを見た先輩の健さんは「バンド名がカプセルで、ジャケットがカプセルの絵で、お前、そのまんまやーん!」とツッコミを入れていたそうです。そう……つまりCAPSULEの中田ヤスタカ氏。日本が誇るトッププロデューサー。彼と私は、同郷の、同じライブハウス出身の仲間だったんですよ!

ま、今のところなーんの接点もありません。爆笑。でも、いつかは中田ヤスタカと方言丸出しで喋れる仲になろう。他県の方にはわからないで言葉で出身校の話で盛り上がりたい。そんな目標を掲げた2017年です。

今年もよろしくお願いします。

2017.01.11

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