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フリーライター石井恵梨子の
酒と泪と育児とロック

Vol.17

今回は番外編。リドルのインタビューをお届けします。

まず動機としては、Ken Yokoyamaのシングル取材で出てきた「日本のメロディック・パンクはもう形骸化してる」という話。もっともだと思う反面、45歳パンクスと37歳ライターが、「今」を断じてしまうのは乱暴だし醜悪ではないかと。もっと生々しい現場からの声が必要でした。

若いバンドは即座に反発するでしょう(そうじゃなきゃマズいと思うよ?)。AIR JAM世代は結局90年代がいかに素晴らしかったかを語ります。だから必要なのは、AIR JAMのムーヴメントから切り離された世代。そしてこの10年のメロディック・シーンに身を置いてきたバンドの声。若くして登場し、一気に注目株となり、しかし10周年を目前に活動休止を余儀なくされた経験も持つリドル。彼らこそ、この話を語ってもらうのに最適なバンドだと思えたのです。

TAKAHIROさん(Vo&G)、SUNSUKEさん(B)に登場願いました。

まず、読んでください。何を感じますか? 何か言いたくなりましたか? このインタビューを読んで「俺にも言わせろ」と思った方は、ぜひ、コンタクトをお願いします。この続きとして、世代を超えた対談があっても面白いよね!

一一今回のアルバム『entities』は、新たに設立した自主レーベルからのリリースになるんですよね。

TAKAHIRO はい。こういうインディーバンドが自分たちでリリースする大変さがわかりました(苦笑)。よく言われる業界の不景気だとか、「インディーのバンドは盤を出してもしょうがない」とか「メロディックのシーンが衰退している」とか……それは耳で聞いてたし「ふーん」とは思ってたんですけど。でもこの4年間自分たちでやってみて、実際にそこを肌で感じましたね。下火になってる理由だったり要因もうっすら見えてきて。その中で、じゃあ僕達はどうするのか、どういう立ち位置を築いて、どういうアピールをしていくべきなのかっていうことを、ちゃんと意識するようになりましたね。

一一話を進める前に、まず確認ですけど。リドルのデビューは今から10年前の2005年。まだハタチくらいでしたよね。

TAKAHIRO そうですね。20、21とか。

一一バンドの実力はもちろんだけど、そういうバンドが勢い良く飛び出せたのは、やっぱりシーン全体に勢いがあったからですよね。恵まれていたというか。

TAKAHIRO そうですね。ただ……どっちがいいんだろうな、とも思います。僕らが若いころはレーベルが乱立してて、まだバンド始めたての、20、21歳のキラキラ輝いた勢いをバッと作品にして出す。でもそれですごくいい結果が生まれることだってあるんです。けど、やっぱり今聴けば音質もクオリティも低いんですよね。ただ今ってそういうことがあまりなくて。一発目の作品を出すのが酸いも甘いも知った20代後半っていうバンドがほとんどなんです。それはそれで、俺らの時代よりもクオリティの高いもの、ちゃんと熟成したもの、ブラッシュアップされたものを出せているわけですけど。

一一いや、私から言わせるとリドルは最初からハイクオリティでしたよ。まさに新世代だなぁっていう感覚があって。

TAKAHIRO いやいや、今の20代は絶対もっとしっかりしてます(笑)。ただ、俺らの時代はクオリティも低いんだけど、なんか爆発とか瞬発力みたいなものはあったように思えるんですね。まぁ自分が年取ったから輝いて見えるのかもしれないですけど。だから当時先輩方からは「昔ほど本物が居ない」みたいに言われてたけど「それはそれでいいじゃん?」とは思ってました。荒削りでも新しい才能がいっぱい出てくるんだからって。続くかは別として。

一一結果、バンドはどんどんブラッシュアップされて品質も上がっていったけれど、同時にシーンの勢いがなくなったのが現状だと。

TAKAHIRO シーン全体はそうですよね。地方に結構いるんですよ、21歳くらいの、俺らの時代だったら誰かがもう見つけてCD出してるだろうなっていう才能バリバリのバンド。でも、言っちゃえばシーン自体の賞味期限が切れていて……レーベルも減ってるし気付かれないまま時間が経って歳とって、家族できて、辞めてしまって……。

一一うーん! なぜだと思いますか。

SHUNSUKE 単純に、一回飽和しちゃったんだと思います。ムーヴメントってそういうものだと言えばそこまでですけど。たとえば僕が高校生の頃はモンゴル800とかが出てきたこともあって、英語で歌うバンドが一回ダーッといなくなっちゃった時期があったし。でも、僕らがバンド始めた頃はまたメロディックに勢いがあって、それこそdustboxとかNorthern 19とか、若い子たちの熱を取り戻してた印象だったんですね。だけど……続けていくうちに、なんか自由度は変わっていきましたよね。僕の意見ですけど、たとえばビジュアル系ってすごく秩序が強いシーンだと思うんですね。「こうでなきゃいけない」っていう流れや形があって。昔はビジュアル系だからそうなのかなと思ってたけど、今ライブハウスに行くと、メロコアシーンのほうが秩序にがんじがらめになってる。お客さんのノリ方、バンドの盛り上げ方、それこそ曲のテンポやビートなんかも含めて「こうじゃなきゃいけない」っていうか。そうなると結局、シーンも2つに分かれてしまいますよね。その秩序を守りながら続けていくバンドと、そこから違うものを見つけようとして別の世界に飛び出ていくバンド。自分自身、新しいメロディックのバンドにあんまり興味が持てないこともあるし。

TAKAHIRO 昔、先輩方によく言われたんですよ。「お前らの世代のバンドはみんな同じでわかんねぇよ」って。俺もそん時は「何言ってんだ」って反発してたけど………今はわかります(笑)。実際の中身はともかく、そこにドップリ浸かってない身としては、全部同じイメージで届いてきてわかんねぇなって思いますもん。もちろん、そこを逆手に取って頭を使ったり、オリジナリティについてしっかり考えてくるバンドも増えるだろうから、いい部分はあるんですけど。でも、やっぱり一回そう見えてしまうと「似たもん同士の楽しいサークル感」はなかなか拭えないというか。先輩!そうゆうことか!って。

一一そうやって冷静に分析しつつ、リドルはこのシーンから離れて別世界に行こうとはしないんですよね。自分たちなりのメロディック・スタイルを変えず、同時にポップな要素もどんどん広げていく。

TAKAHIRO 活動における様式美ってあるじゃないですか。たとえばメロコアバンドなら、ツアーは30本くらい回るもんだ、地元の仲間を大事にするもんだ、とか。もちろん僕らは音楽的に幅広くやってますけど、スタンスとしては、『doll』に載っていた人達のような活動をしていこうと思うんですね。まず地道に、自分たちで発信することに対して能動的で。そこで仲間だったり、活動に手を貸してくれる人に対して誠実でありたい。それは先輩方を見ながら覚えたところですよね。インディーズシーンが格好いいなって思えたのは、音楽面と同じくらい、アティテュード的なものがデカかったからで。そういう面への色褪せない憧れが、自分たちを「メロディックのバンド」たらしめていると思うんです。メロディック・パンクというか。

一一メロディックというより、パンク、の部分ですよね。長らくパンクシーンが培ってきたアティテュード。

TAKAHIRO そうですね。そこが格好いいなと思えるようになったのは、ちゃんと物事を自分たちで動かすようになってからで。いざCDなんか出す立場になってみると不思議だったんですよ。なんでAIR JAMの頃、シーンにあれだけのバンドがいて、あれだけ社会的影響があったのに、みんなD.I.Yやライブハウスにこだわっていたのか。オーバーグラウンドに行ってトップアーティストと雑誌の表紙で肩組むような活動をするバンドがあまりいなくて、自分たちのやり方を貫いているように見えた。まぁそれも俯瞰的に見れば一長一短だと思うんですけど。

一一閉鎖的である、という一面は確かにありました。

TAKAHIRO ええ。外から見ればガキだなって思われるようなこともあるだろうし。でも中から見てみればすごく筋が通っているし、仲間がいることでバンドのモチベーションも高まる。そういうことの重みは、ようやく見えてきましたね。芯を守ったうえで閉鎖的に見えないようにやっていかなきゃとも思うし。

一一そうやって先輩たちのアティテュードを受け継げば尚のこと、現状に不満はあると思うんですね。失礼ながら、閉塞していくシーンの中にいる若手バンドの気持ちを、ここで改めて訊いてみたいです。

SUNSUKE ……僕たちもう若手じゃないです(笑)。どっちかって言うと、僕らもシーンの若い子を外から見てる感じですかね。でね、結局みんな楽しいんですよ。気の合う仲間で、同じような目標とか視線を持ったバンドで。傍から見れば身内ノリだけど、同じような仲間でツアー回ったりイベントやればお客さんも集まるし。それはすごく楽しいことで。自分たちも昔はそこに疑いなんて何もなかったし。

一一みんな好きなツボが一緒ですもんね。楽しくないわけがない。

SUNSUKE そうそう。だから20代前半のバンドが7バンドくらい集まって、そこにお客さんもたくさん入って、みんな熱いMCとツービートを鳴らして……その光景は今もちゃんと成立してるんです。ただ、そうやって自分たちが信じてる音楽を、もっと広い場所に届けるような機会を自分たちで作らないと、という危機感はありました。結局お客さんも大人になるしバンドも大人になるし、いずれみんなライブハウスから離れていくなら、それは大学生のサークルというか、一瞬の輝きになってしまう。大人になってもバンド続けたくて、ライブハウスから足が遠のいていく人たちの耳に今でも届くような活動をしようと思うなら、そのままじゃ絶対にいけないぞって俺は思っちゃいますね。自分たちが経験してるから。

TAKAHIRO たとえばロコフランクって、僕がハタチくらいの時に飛ぶ鳥を落とす勢いだったと思うんです。で、ふらっとライブに観に行くと、同じジャンルのバンドがあんまり出てこなかったんですよね。それこそ地元でずっとやってるハードコアの重鎮だったり、あとロカビリーのバンドが出てきたり。もちろん一緒にやればお客さんは喜ぶだろうっていうバンドはいるじゃないですか。いちキッズの目線から見てこの対バン見れたら最高だっていう。そういうものをバシバシ裏切ったうえで期待を超えてく格好よさがあって。そこで前知識もバックグラウンドも知らずに出会ったバンドから新しく刺激を受けたり、掘り下げて知ったことはすごくいっぱいあるんですね。俺はそれを「シーンってものについて考えるチャンスをくれた」って勝手に思ってるんですけど(笑)。今の若いバンドはお客さんの期待に応えることにすごく敏感だし、アンテナも張ってるんですよ。頭もいい。ただ、そこばっかり上手になりすぎた弊害として、シーンは巨大な囲いがあって外からは何も見えないような状態になってる気がします。僕自身も「入りづれえ」って思うし(笑)。

一一TAKAHIROさんでも思うんだ(笑)。

TAKAHIRO でも石井さん、メロディックの若いバンドとか最近聴いてます?

一一もう全然。面白くないから聴いてないです。

TAKAHIRO はははは! そうなっちゃいますよね。僕ら、ハードコアのイベントにも出るし、歌もののバンドとも一緒にやるんですけど、そういう場でメロディックのシーンの話になって「こないだ誰々と一緒にやって」って言うと「いや、知らないっす」って言われちゃうんですね。それは悲しいことだなぁと思う。だって若いメロディックの子達でいいバンドはたくさんいるんですよ? メロディック・パンクって音楽に誇りを持ってるなら、それに興味もない人、知らない人、もしかしたら偏見を持ってるかもしれない人たちの前でやる機会を、自分たちから作っていったほうがいいんじゃないかなって。そういう人達の前でこそツッタンツクタンやっていこうよ! 「メロコア、イイネ!」って思わせようよ! 少なくとも精神鍛えられるよ! って(笑)。そういう機会自体が昔より減ってる気がします。インターネットのせいなのかな?(笑) たとえば東京のバンドだったら自分たちに合いそうな場所、合いそうなシーン、ちょっと調べればわかりますもんね。で、そうなると外に届かないんですよ。自分から「若いメロディックを探そう」って思ってアンテナ張ってない限り。

一一あぁ。アンテナ張らない限り、嫌でも話題になる、いろんなところからやたら聞く名前だなぁ、みたいなバンドが出てこないわけですね。

TAKAHIRO そう。それだけ傍から見れば狭いコミュニティに見えてるのかなって思います。繰り返しになっちゃいますけど「拡げていこうって意思」はやっぱり伝わる人には伝わりますよ。好きなメロコアバンド観に行ったら、すげぇハードコアのバンドが対バンで出てきて。怖ぇって思うけど、とりあえず好きなバンドと仲良しらしいから名前覚えて、あとでディスクユニオン行こうかなって思えたり。そこで知らない世界を知ったり、その2バンドがルーツを同じくしているのに驚いたりした。そういうドラマがあるから……知ってしまったらやっぱ武道館でスラングは観たいじゃないですか!

一一観たい。何より観たい(笑)。

TAKAHIRO 何故、今このタイミングでそれが? っていうドラマがバンドにはあって、そのドラマの面白さって僕らの世代はまだわかってるんですよ。そういうドラマを伝える存在がこれから先も居なきゃいけないし、ずって居て欲しいなぁって思うし、そうなりたいなって思います。僕らは埼玉でずっとやってて、シーンのファミリーツリー的なもんをずっと見てきて、その樹に花が咲いたり散ったりしてんのをボケーッと13年間も眺めてた。今は、その樹の歴史や太さとか、新しい芽に伝える役目もちゃんとやっていかなきゃなぁって思います。もちろん自分達もでっかく咲きたいし(笑)、ただ水を吸い上げて枯らしてくんじゃなくて、樹全体を潤すようなイメージですね。

2015.11.02

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