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フリーライター石井恵梨子の
酒と泪と育児とロック

Vol.24

先月22日、WANIMAの「Everybody!! Tour」後半戦を見てきました。会場は幕張メッセ。2DAYSの二日目。いろんなレポートがすでにアップされているので今さら詳細には触れませんけど、個人的な驚きポイントは以下です。

  1. メンバーが奈落から飛び出してきた(注:「奈落」とは舞台の床下からせりあがってくる仕掛けのこと)
  2. センターステージがターンテーブルみたいに回転していた
  3. LEDライト、LEDビジョンのクオリテイが最先端すぎた
  4. ステージだけでなく会場全体にムービングライトが張り巡らされていた
  5. スモーク、火吹き、雪降り、銀テープ炸裂など、演出が半端なかった

要するに「予算のかかってるコンサートで見るやつ」が全部ぶっこまれてました。私にとっては「あるとは聞いていたけど、本当に見るのは初めてのやつ」ばかり。すごいなぁと素直に感心したし、予算どんだけなのかと裏を知りたくなったけど、それでも、マイナスの感情は一切湧きませんでした。「なんか……変わっちゃったな」と急速に熱が冷めていくあの感じ。それが全然なかった。自分でもびっくりでした。

一年前は違いました。3月のさいたまスーパーアリーナ。初のワンマン、初の巨大ホール。2万人の観客全員に楽しんでもらおうと、メンバーやスタッフはあらゆる可能性を考えたはずです。ライブハウスでウケていた下ネタは、20代キッズにはOKだけど、小学生やその親世代にはよろしくないかもしれない。「みんな」のことを考えるって、つまりこういう配慮と取捨選択が必要な作業です。考えれば考えるほど面倒なので「広い会場でもいつもどおりシンプルなセットで!」と開き直るバンドは珍しくないけれど、WANIMAはちゃんと挑んでいました。広い会場に見合うだけの、でっかいエンターテインメントに。

たとえばバンド名を紹介するとき、「谷間です」とKENTAがボケて、すかさずFUJIが「見たーーーい!」と叫ぶシーン。これは以前からラジオでも続けていたネタのようですが、巨大なビジョンで見ると、非常にTVバラエティ的な印象を受けるものでした。面識のない有名人からのビデオレター、お色直しのためのビデオコーナーも然り。万人向けのエンタメとしてまず有効なのは、やっぱり今でもテレビ的な世界なのですね。納得しつつ、実は思いきり引いている自分がいました。これはライブ=その場限りの熱の交換ではないぞ、事前に誰かが用意したVTRじゃないか、と。

あとは、巨大ビジョンに映るメンバーの耳にしっかりイヤモニがはまっているのも悲しかった。演奏は確実に良くなるし、進化するステージ音響システムを思えば使って当然の道具なのでしょう。でも考え方が古いのか、私の中でイヤモニは忌むべきアイテム。以前に年上のミュージシャンから聞いた「あれは客の声が聴こえなくなるからね、寂しいよ」との言葉が、今も偏見のように残っているんです。あぁ、もはやファンの声は彼らに届いていないのか……と考え出すと、心からライブを楽しむなんて到底できなかったですね。

一度冷めた熱は、しかし数カ月後にぐいーんと復活します。昨年末に見たスタジオコーストでのライブ。万人向けのエンターテインメント性はしっかり保たれていたけど、それはテレビの世界とは程遠いものだった。たとえば、最前列のファンをわざと貶めて笑いを取るシーンがあったんですが、これは綾小路きみまろが得意とする「エンタメの鉄板」であると同時に、そこに集まった者だけが瞬間的に爆笑できる「ライブならではのハプニング」でもあった。要するに、バラエティの手法とライブハウスの特性が、きちんとWANIMAの中で融合し、自分たちのモノとして消化されていたのです。

またアンコールでのリクスエスト・タイムも素晴らしかった。より良い演奏のためにイヤモニを選んだ彼らは、そのうえで、より楽しんでもらえるよう全員参加型の時間を設け、積極的に生の声を拾いに行くことを選択したのです。イヤモニが寂しいなんて嘘だった! 本当に、こいつら凄いな、と震える瞬間でした。「みんなのためのエンタメ」が、ほんの半年くらいで「WANIMAだけのエンタメ」に進化していたんですから。

幕張メッセも、もちろんその延長上でした。冒頭に書いたようにステージはゴージャス極まりなかったけど、すべて「そうしたいからやっているのだ」という積極性しか感じられなかった。演出のひとつひとつが、その場限りのサプライズであり、喜びや興奮になり、リアルな熱の交換に繋がっていたんです。中心には歌があるだけ。見事な光景でした。本当に言いたいこと、やりたいことがバンドの真ん中にある限り、演出の派手さ云々は完全に二の次になるんですね。初めて知りました。

話は少し変わりますが、それまでライブハウスでやっていたバンドが、ホールへ、アリーナへと進んでいく時の、ふと心によぎる違和感って何でしょうね? 本来なら祝福すべきことなのに、なんだって重箱の隅を突くようにマイナス要因を探したくなるのか。これはたぶん、多くのライブキッズが共有してくれる感覚だと思います。そして、世間的には飛ぶ鳥を落とす勢いのWANIMAにも、同じ理由で離れていったファンがすでにいるのでしょう。おそらくは、「『Are You Coming?』までは良かったけど、それ以降シロウトみたいなガキが一気に増えてさぁ〜」なんてことを言いながら。

自戒を込めて言いますが、「おまえ、何の玄人なんだよ?」って話です。ライブハウスの玄人? まぁ場馴れしているとか、ピット内での身のこなしとか、フロアにもある程度の約束事はありますよ。でも、それに則って遊ぶことと、初めて来た人をシロウト呼ばわりするのは話が違う。前者は楽しむための共通認識、後者はただの選民意識です。

先日WANIMAにインタビューを行いました。(http://realsound.jp/2018/05/post-192597.html)バンドの思想や精神性などがじっくり語られているので、ぜひ読んでください。そして、私が一番ハッとしたのが「対バンという言葉の意味もわからない人もいる」と言ってのけたKENTAの考え方でした。

ライブハウスにいれば当然のように理解できる言葉や出来事。それって世の中では全然普通じゃないんですよね。それに気付くか、気付かないか。そして「当然」が通じない世界にも怯むことなく挑んでいけるかどうか。これができるのは、本当に強い精神を持った人間だけです。自分よりもだいぶ年下のバンドだけど、心から尊敬しています、WANIMAのこと。

もちろん、自分が属する世界の狭さを知った上で、それでも親密性にこだわるバンドがいるのは全然いい。私自身も今後ずっとライブハウスに居るんだろうと思っています。ただ、そのことに気付かず考えもしないまま、巨大ホールを馬鹿にしたり若い子をシロウト呼ばわりしたりするのって、なんて恥ずかしい選民意識なんだろう! 今、ようやく、そんなことを考えています。

2018.05.19

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