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SAND 4th Album [DEATH TO SHEEPLE] Release: 2015.10.07

SAND 4th Album [DEATH TO SHEEPLE] JKT画像

Track // 01. The March Of Cruelty / 02. Lalalala / 03. Treatment feat.ANARCHY / 04. Drowsy (interlude) / 05. Vapid / 07. Paint It Black / 08. Breezy (interlude) / 09. Off The Table / 10. Hazy (interlude) / 11. Straw Man / 12. Intro

SAND 4th Album “DEATH TO SHEEPLE” ALBUM REVIEW!!

名前を聞くようになった頃のSANDは正直、“関西にひしめくメタリック・ハードコアのひとつ”という印象に留まっていました。実際大阪は、1990年代の初頭からTERMINAL JUSTICE MAXXを筆頭にDUG REVENGE、SECOND TO NONEといった多くのバンドが存在し、次世代にあたるSTRAIGHT SAVAGE STYLEやEDGE OF SPIRITなども登場したお土地柄。DYINGRACEを生んだ神戸、WITS ENDのお膝元である名古屋と並ぶ一大勢力でした。さらに次世代のSANDはつまり、その頼もしきホープとして映っていたわけです。

その印象が変わり始めたのは、“FREESTYLE OUTRO”以降だったように思います。T.J.MAXX、NUMBといったハードコアからAK-69、M.O.S.A.D.のようなヒップホップまでをフラットに扱うイベントを開始したというトピックには、新鮮な衝撃を覚えました。名古屋名物“MURDER THEY FALL”という先達もあったわけですが、あのゴツゴツしたSANDが、大阪で新しい遊び場を自ら作りを始めたという事実が心に残ったのです。それに当時、ヒップホップ + メタリック・ハードコアのクロスオーヴァーはCRO-MAGS、BIOHAZARDといった古典やE-TOWN CONCRETE、 FURY OF FIVEなどを例に出すまでもなく目新しいものではありませんでしたが、世界的に見てもフォロワーの多くがダサくて辟易していた時代。そんな中にあってここ日本は、CALUSARIやMENACE OF ASSASSINZ、WIZ OWN BLISS、PUBLIC DOMAINなど奇跡的なバンドの宝庫だったわけで、SANDも音楽的にそうなるのかもしれないという期待もありました。しかし初の単独作は予想の斜め向こうで全然そうなっていなかった(笑)。強烈さを増したMakoto氏のヴォーカルと目まぐるしい曲展開が、やたら得体の知れない存在感を放っているのみ。こちらの勝手な期待に応えてくれなかったというのが良かったし、あの感覚を今もSANDは保っていると思う。

PIZZA OF DEATHとの契約はまたしても予想の斜め向こうだったけれど、出てきた音源はクレイジーそのもの。出てきたものをそのまま音にするという行為が生むカオスは、ヒストリカルな講釈が意味を成さない自由を形成していました。ある意味各パーツに真新しさはなく、クラシックとすら言えるけれど、露出具合が完全に変態という狂気。その狂気は『DEATH TO SHEEPLE』でますますラフに進化を遂げています。これはブルーズにも通ずるシンプリシティの体現だし、古き良きジャパニーズ・ハードコアにも近い感覚。ウンチクやテクニック云々ではなく(実際はどちらも高次で備えているけれど)、暴力的な音の組み合わせを用いた感情のバーストに打たれて“生”を実感できる体験。かつてPAINTBOXが「叫べ羊共よ、飼い殺される前に」と歌ったように、羊だって生きているし、守るべきものもある。叫ばなければならない瞬間も。でもSANDはもっとノー・マーシー。口を開く意志が無いと知れるや即ラムチョップ。羊であることを捨てなければならない時代だということを、改めて気付かせてくれる生々しい怒り。同時に、自由を得る喜びもそこかしこに込められているのがこのアルバム。ラストの「Intro」が象徴するように、彼らはこれからも自分たちの欲する世界を、自分たちの手で作り続けるのでしょう。

Review By 久保田千史 (CDJournal)

SANDの新作、本当、最高だ。間違いない。音楽なんて、良いか悪いかのどちらかしかないし、細かなことは、実はどうでもいい。ハードコアならなおさらそうだと思う。

破壊するための音楽。それはモノを破壊するのではなく、価値観の破壊。価値観と言ったって、奇抜なものじゃなく、本当に当たり前の、カッコいいかダサいかという価値。目線はストリート。その辺にいるんだけどわかってるヤツらの目線。と同時に、自分自身を解放するための音楽でもある。不器用だったり、周りから浮いてたり、怒っていたり、社会にやっつけられてたり……とにかく、何か違うぞと思ってる人間にとっての解放。人それぞれにモチベーションは違うだろうけど、そこに惹きつけられるのには理由がある。

普通が嫌いなヤツにはピッタリの音楽だと思う。群れることのダサさ。盲信することのダサさ。SANDはそこをハッキリ言う。ポエムみたいな歌なんて歌わない。群れるのはダサいけど、ユニティはある。全国のハードコアの現場。カッコいいバンドはたくさんいるし、いろんなライヴやイベントで協力し合っている。僕個人もずっとハードコアのシーンにいるわけではないのに、いつ戻ってきても受け止めてくれる温かさがある。そして、その全く同じ目線で世界にもつながっている。SANDは苦労を当然覚悟した上で、海外のハードコア最前線にも出ていく。そして海外のライヴでも日本と同じくらいガンガンカマす。媚びないし、文句だって言う。そして海外の仲間を日本に招聘して、一緒にライヴを回る。MAKOTOが前に言ってたけど、「最高に面白い音遊び」なのだ。ハードコアを通して、世界中の似たようなヤツらと仲間になれるし、音楽を共有できるし、何しろ、日本人だって海外でもカマせられる。他の音楽ジャンルに比べて、日本のバンドがちゃんと高い評価で認められているのも事実だ。SANDは身を持ってそれを形にしているから素晴らしい。

怖そうなイメージはもちろんあるだろうけれど、見た目だけで判断してはいけない。暴力は許さないし、ライヴ中に倒れても誰かが助けてくれる。基本は楽しむこと。みんなで楽しむこと。それをダサい言葉で表現したくないから、ハードな音楽を体で受け止める。目の前にガツンと迫って、魂をつかまれるような思いは、他の音楽ではあまり体験できないはずだ。生身の人間が面と向かって言ってくるような音楽。嘘のない音楽。だけど魂に響く音楽。そして、これは単なる音楽じゃない。ハードコアの良さはいろんなところにあるし、すでにいくつか書いた。言ってしまえば、カルチャー。

そして何よりも、これは究極のダンス・ミュージックだと思う。一番激しいダンスをフロアで展開しているのはハードコアだ。日本でもっとハードコアが広まればいいなとずっと思っている。だけど、日本にはSANDがいる。そしてこの新作は最高だ。

Review By Toshiya Ohno (FLJ)

SAND 4th Album “DEATH TO SHEEPLE” RELEASE INTERVIEW

Interview Vol.02 ---
ほんとに思ってる? そこを見ています

あんま好きじゃなかった、全部が。

-- 今は充実もあれば嬉しさもある。それでも歌うときにまず怒りが出てくるっていうのは、なぜでしょうね。

Makoto みんな両方あるじゃないですか。いい気分の時と、すっげぇムカつく時。人間だったら絶対どっちもあって、そのすげぇ汚いところを俺らは表現してるだけ。俺らも当然みんなと同じように半分は持ってるんですよ。いい心っていうか、気持ちいいところ。でもそっち側は歌ってる人がいっぱいいるから。

-- それだけが理由ですか? 今回の「PAINT IT BLACK」曲に、“俺たち全てはここから始まった/純度100%の憎悪”っていう歌詞があって。すごいパンチラインだと思う反面、これって一体何なのかなと思います。

Makoto なんでしょうね? とにかく……昔はあんま好きじゃなかった、全部が。

Ishi うん。

Makoto ……今思えばちょっと頭が弱くて。何も考えてないのに、すぐ沸点に達して喧嘩してしまう、少し変わった子やったんですよ。怒りしかない。別に恨みはないのに、一気にバーッと怒りすぎて、ワケわかんない感じにキレてしまう。……頭おかしかったんですかね(苦笑)。今思えば、ほんと嫌な奴だなぁと思う。俺、当時の自分とか、今考えても全然好きじゃない。根拠のない憎悪に支配されてた。

Ishi はははは。

Makoto ……あんま言いたくないんですけど、人として未熟すぎて、間違ってることを悪びれることもなく平気でやってたから、あの頃は。で、今質問されてるその曲の歌詞の描写のエグさって、その当時の感覚からそのまま来てるんだと思うんですけど。パンドラの箱的な(笑)。

-- Ishiさんは長い付き合いですけど、そういうMakotoさんの性格をどう見ていましたか。

Ishi なんだろうな、思い通りにいかなさすぎることが多かったのかな、って思いますよ。今思えば本人が間違ってるところもあるんですけど、とにかく「こうって思ったらこうや!」っていう性格。気に食わないことだらけで思い通りにならない現実。偶然見つけたハードコアバンドってものが、自分の暴力性や反逆精神と相性ピタッて合ったのかもしれないですね。それまで何もなかったんで、そういう鬱憤を晴らすものが。

-- それだけ抑圧された環境だったとも言えますか。

Ishi いやいや、それは別に。世間ではもっと大変な環境の人がいると思うし。でも物事の捉え方ですよね。何かに対して脳みそがイーッ!ってなるのが早い。そこ、俺とMakotoは人と違ってたかもしれないです(笑)。

Makoto ……馬鹿すぎるよな。ガキだったし、とにかくツンツンしながら歩いてて、目ぇ合ったら「オラァ!」っていきなり襲ったりして。そしたらすげぇ人数いっぱい出てきて、逆にボッコボコにされちゃったり。んで、後から(腕に)包丁ぐるぐる巻きにして「返しじゃボケー!」って襲いに行ったりとか(笑)。

-- ………はははは。

Makoto きっかけ作ってんの自分なんですよ。じろじろ見て、たむろしたり偉そうにしてる奴見つけると、なんかムカつくなーと思う。それで自分からちょっかい出してるわけで。馬鹿なんでしょうね、放っときゃいいのに。でもなんか、今思えばですけど、寂しがり屋だったかもしれない。寂しがり屋で愛情表現ができなくて、なんか自分が歩いてるエリアにそういう連中がいると、イラつくっていう感情が一気に出てきて。それでちょっかい出すっていうか。うん……。

-- Ishiさんも、似たような感じの10代ですか?

Ishi いや、僕はそんな外に攻撃していく感じじゃなくて。でも感じてるところは近かったと思いますよ。その沸点というか、「なんなんこれ?」って思うところも同じ。で、Makotoはすぐ「オラァ!」って行くタイプですけど、僕はまぁ……だからギター弾いてるのかもしれないですね。そういう(攻撃的なものを)妄想しながら(気持ちを)そっちに向けていく、みたいなところはあるかな。

ヴォーカルが一番怒ってなくちゃダメだと思う

-- なるほど。その暴力衝動が今は曲という形になっている?

Ishi 単純に、いかついほうが好き、っていうのは昔からあるんですね。ダラダラした歌詞や曲よりも「うわっ!」って思うものに衝撃を受けたし。あと、これは俺の勝手な意見ですけど、もちろん喜怒哀楽はあるんです。楽しいこともあるんですけど、Makotoが「楽しくやろうぜ」って歌っちゃうのは、なんか違うんですね。やっぱヴォーカルが一番怒ってなくちゃダメやと思うんですよ、その会場で。その歌を頂点として、来てるみんなが「うわっ、わかるわ!」って感じで暴れ出して、結果的に楽しくなれればいい。そういうイメージなんですかね。先にこっちが「楽しい~」って言ってもうたら、なんか違うと思う。

Makoto ……なんか難しいこと言うなぁ(笑)。石さん渋いスね(爆笑)。

-- 悪いものに憧れる感覚、大なり小なり若い頃はあると思うんです。でも今、その時代はとうに過ぎたし、ただ悪ければいいっていう価値観もないはずで。

Makoto 今でも精神年齢が一緒だったらそれこそバンドなんて続いてないですよ(笑)。そんなヤツはずっと刑務所か精神病院でしょ(爆笑)。だから、最近の変な事件を起こすような連中、ああいうのとは違う。ほんと一緒にされたくない。うん、真面目にやってます。

-- 今のSANDの基本になっている格好良さ、求めている姿を、“悪さ”という言葉に頼らず表現すると、どうなりますかね。

Makoto やっぱり……目で見るじゃないですか、いろんなものを。一方向からだけじゃなくて、いろんな方向から。で、もともと僕は人間不信なんで、勘繰っていろんな角度から見ようとする。「こいつほんとにそうなのか?」って考える。みんな表面だけで見てるような気がして。「ほんとは違うんじゃねぇのこいつ」ってとこ。それこそさっき言った歌謡曲の、歯が浮くような歌詞を歌ってるような連中を見ても「絶対思ってねぇだろ」って思う。でね、ビジネスだったら全然いいんですけど、それをビジネスだって言い切らないところがなんだか詐欺みたいで気持ち悪いなと思う。そういうところ、一番イライラする。宗教が「これはビジネスだ」って絶対言わないのと似てる。

-- そこをぶっ壊したい、という思いはありますか。

Makoto あります。あるけど、反面けっこう冷静で。俯瞰で見て、物理的にも難しいだろうっていうのはわかってます。音楽も、よりビジネスライクで、ちゃんと割り切ってやってる子が多い。腹の中ではね。で、レコード会社、大手レーベルは当然ショービズとしてやってる。それらのやり方が気持ち悪いからぶっ壊そうって言っても、僕の声がじゃあ何人に届くのか、って話になってくる。もし一瞬届いたとしても、そのみんなを何十年も唸らし続け、繋ぎ止めるだけの力があるのか。みんなを納得させる楽曲、存在感とか実売数とか、はたまた一人でも多くの人に届けるための聴きやすい楽曲なのか、とか。いろんなことを考えれば物理的に無理だなって思う。だから、そういう意味も含めて、今の俺たちのやり方じゃ別になんも変わんねーだろ、と思いながら書いてる部分もある。

-- わかっていて、これだけ書きますか。

Makoto これを言ったところで、どうにもなんねぇのもわかってる。これで世の中が変わるなんて全然思ってない。ただ、吐いてる感じ。

-- それでも、吐き出さずにいられない?

Makoto うーん。確かに……変わんないからやめる、ではないですね。変わんなくてもやってる。で、変わんないのはわかってるけど、でも根っこのところで、なんかぶっ壊してやりてぇな、とは思ってます。

うっとうしすぎて放っとけねぇな

-- 嫌だけど文句言っても仕方ないものって、たぶん誰にでもあって。普通はもういいやって放っちゃうけど、Makotoさんはそうしないんですね。とにかく嫌なものを徹底的に攻め続けるし、ぶっ潰そうとする。

Makoto もしかすると、かまってちゃんなんですかね、俺たち(爆笑)。でも、そう言われると矛盾もありますね。嫌いなら放っときゃいいのに。「うっとうしすぎて放っとけねぇな!」みたいな。

Ishi でも、だからずっとやってるのかもしれないです。たとえば何か理想があって、「こうだろ、お前ら!」って言ったとき、全員が「うん、そうですね!」って言ってきたら……逆にドン引きすると思います(笑)。

Makoto ははは。でも僕は誰かに伝えたくて書いてるわけじゃないし、まったく理解されないこともある。それでいいと思います。

-- まずは「こういうのが嫌いだ」と表明するだけ。だけどその言葉はライブハウスでは、自分たちと観客の総意みたいなものにもなりますよね。

Makoto ……どういうことですか?

-- 強烈な怒りの感情でも、何かを確認しあう言葉になり得るというか。今回の「The March of Cruelty」に“てめぇはどっちだ?/もう始まってるぜ”って言葉があって。こんなこと突きつけられたら、客はもう自分がどっち側なのかその場で覚悟せざるを得ない。

Makoto あー、なるほど。確か……メタリカかな、そういうの多くないですか? オーディエンスを鼓舞したり、煽るようなリリックが多かったと思う。

-- 多いですね。音と言葉で「覚悟決めろ」って迫ってくるような。

Makoto うん。そういう影響もあるのかな。「Show me what you got?」的なニュアンスも、そのへんのリリックにはあるかなと思います。

-- あとは覚悟決めないまま、流行ってるものをただ追いかけている人たちへのディスもあって。

Makoto うん。アイドル好きのオタクとかクソ、と言い切ってみたり(笑)。

-- あえて書くと。嫌われるのも上等ですか。

Makoto うん。まぁ、むっちゃ嫌われたいぜ! って思ってるわけではないんですけど(笑)。大多数が歌うようなことを言うくらいなら、全然、正反対のことを言うくらいのバンドがいても面白いでしょ。それだけなんですけどね。「お前らみんな人間なんだから、そういうとこも絶対持ってるでしょ? 怒ったりムカついたりもするでしょ?」って思うし、そこをあえて歌ってる。

-- それを続けることのキツさって、感じることはありますか。

Makoto キツいなぁっていうのはないですけど。なんだろ? でも、すげぇリアルなことで言えば、たとえば日本のフェスに関して言うと、ある一定の規模からは、実売数が多くないとセレクトさえしてもらえない。「俺たちヤバいから出してくれよ」って言っても、出してくれないフェスが実際あるわけで。そういう時、やっぱしょうがねぇな、とは思いますね。やってる音が音だし、歌詞も歌詞だし、そうやってツッパってきたんだから。でもそこでね、俺らみたいなもんに一生懸命やってくれてるピザオブデスのスタッフさんのことや、ずっと俺らのライブで遊んでくれてる皆のこと考えたりすると、そういうとこにこそ食い込んでいきたいし、応援してくれてるぶん、もっとカマしてやりたいって思うんだけど。でも選考で弾かれると、しょうがねぇな、自分のせいだ、って思います。俺も普段は仕事してるんで、ある程度わかるんですよ。バランスとか、需要と供給みたいなところ。そこは、まぁしょうがないね、と思う。悔しいなとも思いますけど。

-- はい。

Makoto 何千何万のステージに立ちたいとか、テレビ出たいとか、そういう目的で始めたバンドじゃないのは事実だけど。でも、なんとか頑張りたいっていう気持ちはすごいある。何倍にも返したいって思うんですね。でもそこで足を引っ張るのが俺らのバンドのスタンスっていう(笑)。

-- そういう自分たちのポジションも、楽しんでますか。

Makoto もしかしたら楽しんでるかもしれないですね。状況にムカつくなぁ、と思いながら(笑)

Interview by 石井恵梨子

Interview Vol.01 ---
そんなものより、頬を引っ叩かれるようなライヴが観たい

アンダーグラウンドの匂いに噎せ返るパブリックイメージ、ブルータルな音の壁と、憎悪の塊のような歌詞世界。SANDの表現はすべてが「暴力的」の一言に収斂していく。正直、怖い、と敬遠する人もいるのだろう。だが、今回はじめてインタビューする機会を得て、認識はまったく変わってきた。彼らの姿勢は、チンピラがシロウト相手に虚勢を張るのとはまったく逆なのだ。自分の表現に対する覚悟と責任感が違う。どこまでも真剣に、とことん真面目にやっているのだ。だからこそ15年も続いてきた。国内ではジャンルを問わずSANDを支持する表現者が増え、海外での評価も高いまま、近年はNYやデトロイト近郊でSANDに影響を受けたと公言するバンドも出てきだしたという。ニュー・アルバム『DEATH TO SHEEPLE』のリリースに寄せて、バンドの現状と、変わらぬ怒りの感情、そしてその核にあるものを探るインタビューをお届けする。

Asian hardcore tyrant

-- 前作(『Spit on authority』)以降、海外も含めたツアー三昧の日々だったと思いますが、どういうことを感じましたか。

Ishi(G) ……バタバタで、あんま覚えてないんですけど(笑)。まぁ前作出してヨーロッパ・ツアーにすぐ行きまして、帰ってきてジャパン・ツアーを毎週末やってたんですね。

Makoto(Vo) うん、初めてピザに呼んでもらって、ああいうふうにちゃんとしたスケジュールでリリースやライブをやらしてもらって。それをずっとこなしてた感じですね。消化試合にならないように、一本一本を一生懸命。まぁでも初めて(土日に)毎週毎週やることで、いいライヴ感みたいなもの? ステージでの持っていき方、みたいなのはわかってきたのかな。そういう感覚はありましたね。

-- 海外はもう何度目にもなるし、SANDを見に来る現地の方もいるでしょうし。そうなると、責任という意識は出てきますか。あと、日本と海外のライブの違いは?

Makoto すげぇありますね。日本からハードコア・バンドってそこまで行ってないと思うんで。勝手に、自分的にだけど、海外ライブ行くときは日本代表みたいな感覚で行くから。日本のハードコア・パンクのみんなに迷惑かけられないし、舐められるようなライブはできない。プレッシャーありますよ。いいプレッシャー。だから一回一回「全員ぶっ殺してやる」ぐらいの勢いでやってますね。

Ishi うん。いろんな地方周らしてもらって、もちろんライブ来てくれる人も、長いことサポートしてくれる人もいて。みんな良くしてくれるんで、そこはやっぱり勝手に背負ってる部分ありますね。日本と海外の違いは、単純に言うと、外人のほうがド派手に騒いでくれるっていうのはあるかな。

Makoto 特にアメリカはね、今日はパーティーだろ! っていう感じある。別に知らなくても、見て「あっ、ヤベエ!」って思ったら、そこからのレスポンスは凄い。でも外国は全部そうなのかっていうわけじゃなくて、たとえばヨーロッパだったら……あれ、どこだったっけ? 最後のエリア。

Ishi ベルギー?

Makoto そう、ベルギーのどっか変なとこでは、なんか「ふーん」みたいな斜に構えたスカした感じで。場所によっても違いはあるんかな。自分もその日は客がそんなだったから、変な方向にスイッチ入っていって、どんどん腹が立ってきて。一生懸命やってんのになんだこいつら、みたいな。それでMCで文句を言い過ぎて、ものっすごい引かれて。「オメーら寝てんのか、このカマ野郎が!」とか言いまくってたら、5人、10人とどんどん出ていくんですよ(笑)。で、そのまま終わった……クソが、みたいなね。あんときは終わった瞬間ムカつきすぎて楽屋で暴れてたなー(笑)。

Ishi うん(笑)。あの日はNASTYもほとんど盛り上がりなかったし、今考えるとそういう土地柄? なのかもね。

Makoto でも、大枠で見ると海外はいい意味で馬鹿っぽく盛り上がってくれて。純粋に楽しいですよ。

-- すごくSANDらしいエピソードだと思います。今回のアルバムの一曲目にも“Asian hardcore tyrant”っていう言葉があるじゃないですか。

Makoto あ、これ言われたことがあって。ライヴした後「SAND、Asian hardcore tyrant!!!」って。「あぁ、そんな感じなんだ……それ渋いな」と思って。それで使いました。

-- 褒め言葉になりますか? 訳せば“暴君”ですよね。ただの“キング”とはニュアンスが違う。

Makoto そうっすね。まぁ褒めてんじゃないですかね? “BADASS”みたいな、同じようなニュアンスじゃないですかね。「イケてんな、お前ら」みたいな。

-- SANDの音やスタイルは、キングではなく、暴君の残虐さだと。実際に暴力性や攻撃性は凄まじいものがありますね。改めて訊くと、これはどういうところから生まれてきたものなんでしょうか。

Makoto ……ねぇ? ほんと思いますよね(笑)。

逆にびっくりします。生徒会長みたい。

-- 自分でも思いますか(笑)。

Makoto うん。普段は普通にやってるんで。社会人として。だから……なんだろうなぁ? やっぱり田舎で育って、Ishiちゃんの兄ちゃんの友達がツッパリやって、BOOWYとか聴いてて、バンドやってて。そういうの見てたから、バンドなんて不良がやるもんだろって認識があって。

-- 昔は確かにそうでしたね。不良と切り離せなかった。

Makoto たぶん、そのイメージでそのまま来てる。もともとバンドは好きで、レコードとか聴くのも好きでしたけど、特にハードコア・パンクが好きになったのは「おぉ、曲悪いなぁ!」「けっこう悪いこと言ってるらしいぞ?」みたいなところで。俺もそんなリリックだったら腐るほど文句あるしムカついてることだらけだし負けねぇなと思って。そのまんまやってるだけですね。だから「どういうところから生まれたのか」って言われても……なんですかね? これが俺らにとって普通やった。俺らにとってはこれが正常で、今はもはや、世間でいうバンドってものが逆にみんなおかしくなっていった感じで。

-- 正常……ではないと思いますけどね(苦笑)。

Makoto 今ね、生徒会長みたいなバンドが多い。ものすごく良いこと言うし、みんな素晴らしいし、人間として絶対間違ってない。でも、だったら本当に政治家とかに立候補すりゃいいのに。逆に僕はそこでびっくりしてます。バンドやんなくてもいいのになぁって思うし、自分の中でずっと違和感がある。最近のライブハウス行ってもね、ステージに生徒会長でフロアの客が学校の従順な生徒たちみたいに見える。「気をつけ」って言われてビシッとしてるような。そういうふうに見えるし、感じちゃうんですね。生徒指導の先生の言うことをよく聞く、真面目で立派な生徒みたい。本来、そういうのが大嫌いな人たちがバンドやったり、お客でライブハウスに来てた。

Ishi うん。それは思うな。

Makoto あと、最近のバンドは演劇っぽい。PVでも、なんかヒーローものの最後の爆発シーンで使うみたいな、すごい崖でウワーッて歌ってて。ものすごい詩的で壮大、荘厳なリリックで。なんなん? あの大袈裟な感じ。「お前そんな壮大な生き方してねぇだろ!」って思う。「お前はなんだ、ギリシャ神話の神か!」みたいな(爆笑)。僕はああいうのが滑稽で仕方ない。でね、10代とか20代そこそこのガキがそんな壮大なことになってるなら、ちゃんと自分たちで「ショービズだから」って最初から言えばいい。なのに「これこそがバンドだ! 音楽だ!」みたいに言われると……。いやいや、学芸会でしょ。ジャニタレと一緒だろってなる。

-- であれば、SANDはとにかくリアルを歌っていたいと。

Makoto はい。

-- ただ、Makotoさんの言う“リアル”って、“等身大”とは別のものですよね。この暴力性は完全に常軌を逸したものですし。

Makoto はははは。そうですねぇ。

-- もちろん自覚的にやっているんだと思いますが。

Makoto はい。でも単純ですよ、ほんとに。テレビとか見てて、歯が浮くような歌ばっかりじゃないですか。歌謡曲の方々。それは別にいいんですけど、でもアンダーグラウンドのみんなも、今はそっち側に寄せていってる人が多い気がする。生徒会長みたいなMCとか、そいつら(ポップスター等)が書くような歌詞とか、それ、いるんかな? せっかくアンダーグラウンドで自由にやってるんだから。だったら、いいこと一個も言わないバンドがいても面白い。

-- 私も、「お母さんありがとう」みたいなこと歌うパンクバンドとか、なんじゃそれって思いますけどね。

Makoto いや、自分も感謝してますよ(笑)ほんとに。なんですけど、それ歌詞やMCで言う必要あんのかっていう。んなことは腹ん中で思っとけよって。いつも思うんですけど、いいこと言ってるな〜、MCも上手だな、って思うバンド見ても、心になーんも来ない。そんなものより、頬を引っ叩かれるようなライヴを観るほうが百倍「うわっ!」ってなる。そういうものが昔から好きだった。

暴力的って、人を傷つけるという意味じゃない。

Ishi たぶん、何がクールか、それだけ。僕らが10代前半の時に受けた衝撃っていうのは、ちょっとキチガイぽかったり、「なんじゃこいつ? 悪いなぁ!」って思えるもので。それは今も絶対残ってる。自分らもライブやるなら「なんじゃこいつら」って思ってもらいたいし。それがただの暴力性だけやったら違うと思う。もっと大きな遊び方というか。

-- 大きく捉えれば、暴力性も攻撃性も遊びの要素になる。

Ishi うん。やっぱり曲作るときはフロアでみんなが大暴れしてるイメージがまずありますし。曲の元ネタは、僕であったり、もうひとりのギターのKoshinが持ってくるんですけど、メンバーでアレンジしつつ、やっぱりエネルギーがドーンと来るようなものを目指していくから。ただ腕組んで見てるんじゃなしに「うわっ、こんなん聴いたら体動いてしゃあないな」みたいな、そういうイメージで。

-- 暴力というより、体が動く本能。

Ishi そこはほぼ同じというか。俺らの中ではリンクしてるよな? 暴力的っていうのは、人を傷つけるって意味じゃなくて。モッシュであったり、もうみんなが無茶苦茶になってる状態。CHAOS。それも“暴力的”っていう言葉の中に入ってるんだと思う。気づいたらもう脳みそで考えてなくて暴れだしてるような。

-- そういう曲がまず用意される。そこに歌を乗せるMakotoさんは、まずどんなイメージを浮かべ、どんなことを考えていくんでしょうか。

Makoto ………あぁ、なんすかね? 俺、よくよく考えると、あんまそういうのないですね。お客さんにどう感じて欲しいとか、他のバンドより薄いかもしれない。別にどうでもいい、みたいなところもあります。思ったことを素直に書いてるだけで、書いてるうちに話が変わったりすることもあるし。それでいいんですね。これが書きたいテーマだ、とか考えないし、すげぇ見て欲しいとも思ってなくて。もちろん「どうしてもこのニュアンスは英語にできない」っていうところは日本語詞を修正しますけど。

-- 意味とか辻褄よりも、音やインパクトを重視する感じですか。

Makoto もちろん曲を何回も聴いて、気持ちいいとこにはめていく作業も考えますし、絶対ここは切っちゃダメだろうっていうところは気をつけたり。あと、普通の人だったらここにこんな乗せ方しないだろうな、みたいなのはたまに狙ってますね。普通に(ビートに合わせて言葉を)置きに行くよりかは、ちょっとこうしたほうが面白い、みたいなところ。

-- あぁ。あえてズラしてるのか、本来乗らないところに無理やり乗せたのか、どっちかわからない箇所は多いです。

Makoto 両方ですよね。どっちかわかんないっす(笑)。でも難しいところは何十テイクもやりますね。どうしてもダメだってならないと、基本決めた乗せ方は変えない。

-- そのオリジナリティはどんどん強くなっていますよね。

Makoto そうっすね。最初は「変わった乗せ方するね」とか言われてたんですけど。最近はそれがやっと板に付いてきたのかな、と思います。

-- 初期の音源は、MADBALLとか好きなんだろうなって思ったんですけど。今回はそういう比較対象が出てこないんです。

Makoto あ、そうっすか? ……今も結構好きですけどね(笑)なるべく何かの焼き直しみたいにならないようにしたい。「ニューヨークとデトロイトにはSANDの影響を受けた新しいバンドがちょこちょこ出てきてるよ!」って外人から言われて。それは、嬉しかったですね。

Vol.02へ続く
Interview by 石井恵梨子