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フリーライター石井恵梨子の
酒と泪と育児とロック

Vol.30 ライブハウスの話を続けていきましょう。

新代田FEVERの西村店長に話を聞いたあと、次に聞きたくなったのは「実際に配信ライブをやったミュージシャンの言葉」でした。6/1から活動を再開したFEVERの、第一発目を飾ったのはoutside yoshino。イースタンユースの吉野寿さんによるソロ弾き語りです。西村店長に勧められての配信デビュー。それまでオンライン配信はおろかライブの撮影も好きじゃなかったという吉野さんが、これを機にどのような実感を持ったのか。そしてまた、彼自身はライブハウスでどんなものを掴み取り、今何を考えているのか。昼間から酒を飲みながら始まったインタビュー。鋭い言葉と優しい表情の対比が、とても印象的でした。

一一6月1日、配信デビューでしたね。

吉野:そうですね。やったことなかったんですよ。やるつもりもなかったんですけど。まぁソロだったんで、あんまり抵抗もなくやれました。

一一もともと、配信というものをどう捉えていました?

吉野:あんまり肯定的には考えてなかったですね。正直、ライブはやっぱり人と対面して、その場の勝負だと思ってるんで。そん時そん時に集合して、はい解散、もう後に残さないみたいな。録画してDVDにすることすらちょっと嫌だし。「家で見たってライブじゃねぇんだよ」と思ってましたけど……まぁ仕方がない。

一一こんな時期だから。

吉野:そう。折よく西村くん(西村仁志/FEVER店長)が誘ってくれたんで、まぁ何でもやってみようかなと。

一一歌ってみて、どんな気持ちになるものですか。

吉野:あの、常に練習スタジオに入って4時間くらいはやるんですよ。それと同じっていうか。特にソロのライブはお客さんが近いし、曲順も何も決めてなくて、話しながらなんとなーく、その場の流れでやることが多いんですよ。その流れを作れない。「この話ウケたから次はこの曲やろう」とか、そんなふうにはできない。だから孤独。なんの反応もない。

一一何度か曲間に「いやぁ、虚しいな!」と叫んでましたね。

吉野:ジャーン! 「どうよ?」……シーン。「なんにもないんだねぇ。虚しい、侘しい!」っつう感じですよ(笑)。でもそれも楽しめましたね。違和感はなかったです。バンドでやるとまた違うニュアンスになると思うんですけど、意外と自分のペースで、いつものようにできたと思いますけどね。

一一観客の反応、たとえばチャットなりツイッターは見ました?

吉野:あ、最初YouTubeのチャットがあるやつで、って言われたんですけど「止めてくれ」って言ったんですよ。ギャーギャー言われると不愉快なんで、何も言わなくてよし。レスポンスもいらない。気が散っちゃう。

一一そういうもんですか(笑)。じゃ、届いた実感はないまま?

吉野:いや、でも「何人がチケット買ってますよ」って最初に言われてたんで、それは良かったかな。チケット買ったってことは聴く気満々なんだろうし。それだけお金払ってくれた人がいるって聞けば「よーし! やるぞ!」っていう気持ちにはなりましたね。最終的に500人くらいいったそうですよ。

一一おお、FEVERキャパを余裕でオーバー。

吉野:パンパンですよ。まぁ配信が初めてだったことと、自宅で見れるっていうことが大きいのかな? 1回に見てくれた人でいえば過去最高ですよ。僕が普段ソロでライブやっても500人も入ることないですから。

一一そこはネットゆえの可能性と言えますよね。

吉野:そうなんでしょうね。みんな心配してるんじゃない? 俺も含めて、こういうふうにやってる人たちのことを。「どうすんのかな? あの人たちライブもないし」って。そんなに必要ないのにTシャツいっぱい買ってくれる人もいますし。心優しい人たちがいるなぁって思います。

一一今は「頼むから生き残っててくれ」って気持ちが強いと思います。配信が100%いいと思ってるわけじゃないけど、とりあえずやるなら何だって協力する。ドネーションもそういう感覚で受け止めてる。

吉野:それしか打つ手ないですからね、現状。まぁ俺は西村くんの企画だったんで、昔から世話になってるし、何か一緒にやれて一儲けできるんだったらいいなって感じで。俺、ドネーションとかベネフィット、寄付っていうのは、自分に対しては嫌なんですよ。もし、それでしか生き残れないようなら、生き残りません。滅亡しますよ。対価でやんないと気持ち悪い。

一一その場にいた4人なり5人なり、チームの達成感も味わえました?

吉野:そんなの何もない! みんな事務的にカメラ回したり、パソコン見ながら自分の作業してるんだから(笑)。なんとなくお客さんっぽく聴いてたの西村くんくらいですよ。友達1人でも、3人でも5人でも、誰かがいてくれりゃあ気持ちの込め方も変わってくると思う。

一一FEVERに椅子を置けば30〜50人は入るそうで。今後は少しでも客席に人がいる状態にして、それプラス配信でやっていくかも、って西村さんは言ってましたね。

吉野:30人……経営的には痺れるだろうなぁ。でもどうしようもないですよね。いいですよ。ああいう弾き語りとか、アンプラグドならね。

一一バンドで配信は考えないですか。

吉野:なるべくやりたくないっていうのが本音だけど……どうもやることになりそうですね。でもどうなんだろう? 実際のライブみたいにあんまり照明がキラキラッとなっても、あれはその場にいるから効果があるわけで、画面で見ても伝わらないんじゃないかな?

一一吉野さんの前日、5月31日にLOSTAGEがネバーランドで無観客ライブやったのを見ましたけど、派手な照明はなかったですね。ただメンバーの顔がはっきり見える明るさが保たれているだけ。それは逆に新鮮で良かったです。

吉野:あぁ、じゃあそういう照明を考えたんですね。やっぱそのほうがいいんだろうね。普段のライブを無観客でやるって考えるよりは、ちゃんと配信なら配信の見せ方のプランを立てて、普通のライブじゃない、配信っていう手法が加わった、というふうに考えないと。そこに対しては俺も否定的ではないですよ。あの手この手で何だってやったらいいと思う。可能性はまだまだある。

一一吉野さんは、これからのことをどうイメージしてます?

吉野:もはや風前の灯です。絶滅寸前。もう半分くらい覚悟決めてますよ。なんだかんだ誤魔化しながら辿り着いた今ですけど、これがなくなれば、あとは死ですよ。DEATHが近づいてる。DEATHです、つって。

一一(笑)そのわりに悲愴感なさそうに見えます。

吉野:だってコロナ以前からこうですもん。俺の生き方自体がこうだし、いつダメになってもおかしくないし。ずっと綱渡りで今日まで生きてきましたから。ついにその時が来たか、っていうだけ。「今か!」とは思いますけどね。でもまだまだ、悪足掻きする気満々です。どこまで逃げ切れるのか。あの手この手、配信も含めて悪足掻きしてやろうと思ってます。そして「さぁカネを出せ」ってことですよ。ソフトなカツアゲと呼んでますけど。

一一(苦笑)対価を払ってもらおうと。

吉野:「ちょっと歌うから、財布を出せ」と。「そんなにないよ」って言われたら「じゃあいくら持ってんの? いいよ、500円で。でも君は持ってそうだから1万円!」みたいな。そうやって人の優しさにつけ込んで厚かましく生きていくのです。それは殺されるまでやりますよ。不安定な生き方は最初からだし、ちょっと風が吹けばぶっ倒れることもわかってることですから。でも、まだ倒れてないから上出来だなと思っています。

一一風が吹けば倒れるだけじゃなく、世間一般がまるで必要としてない文化圏に自分がいたんだなってことは、いよいよ気づかされますね。

吉野:俺は最初からわかってましたよ。子供の頃からまず学校がダメだったし、集団で同じことをする価値観に耐えられなかった。「前へならえ? なんだそれ?」って。ずーっとその調子ですよ。世の中に生きる場所がなくて、しょうがなく辿り着いたのがこの場所なんだから。その中でも俺たちは底辺だから、一番最初に淘汰される。

一一バンドに希望があるとは思わないですか。

吉野:やりたいことがそれしかない、っていうのはありますよ。バンドはやりたくてやってるし、そこに命の発露がある、生きてるからやるんです、みたいなところもある。でもバンドってひとりでできないから。誰かが辞めるって言えばもうバラバラになる。いつまでも続くとは思ってませんよ。だから希望っていうものは特にない。ただ、生きてれば、そして指が10本まだ動けばギターは弾けるし、声が出れば歌は歌える。それで何とか生きていけねぇかな? っちゅうだけの話ですよ。今も社会に身の置きどころはなくて、誰かの役に立つわけでもない、役に立とうと思ってるわけでもないんだから。

一一いや、そんな人が野音には立てないですよ。イースタンユースの歌で生きてこれた人、全国にいっぱいいます。

吉野:俺みたいな奴がいっぱいいるんですよ。はみ出さざるを得ないような人たち。それはすごく少ないように見えて、かき集めてみると案外いる。その人たちとのやり取りの中で生きてこれたんだなぁと思ってるし、そういう人たちのためだけに歌ってる。より多くの人々、よりたくさんの人たちに聴いていただきたいとは思ってない。必要な人のためだけに歌う。俺みたいな人、世の中からはみ出してしか生きられないような人だけに向けて。それ以外の人たちにはそいつら用の音楽がありますよ。「こっち来んな、こっち見んな」って感じ。それでいいと思ってます。

一一ライブハウス自体が、そういう人たちのためにあるのかもしれない。

吉野:そうですね。僕らの若い頃は特にそうだったと思う。もう動物園みたいな。なんか血が出てる人とかいるし、すっごい変な髪型の人もうじゃうじゃいて。こぼれ落ちた人たちばっかりだから、その優しさもあるんですよ。いくらすんごい髪型だったりしても、あんまり珍しくもないしね。ずーっと社会の中で秘密にしてたことをポロッとカミングアウトしたとしても、案外「あ、そうなんだ? で?」くらいで。だから生きてこれたんだと思う。そういう場所がなかったら、とてもじゃないけど息苦しくて。当時札幌でライブがあるとそういう人がいっぱいいて、北海道のいろんな場所から出来損ないが集まってる。「やったぁ! いるじゃねぇの。俺だけじゃねぇじゃん!」って。

一一音楽好きはみんな、音楽そのものに救われた経験がある。でも人と出会う場所っていうのも同じくらい大きいですよね。

吉野:そうですね。「自分だけじゃない」ってこと。「わかってもらえねぇと思ってたけど、意外と話通じる奴がいるんだ」って。そういうことでほんと救われてきたと思います。学校辞めて札幌来て人と繋がって、ほんと良かったなぁって思いますよ。

一一当時の札幌コミュニティの人たち、未だにみんなアクの強いバンドやってますもんね。しぶといというか何というか。

吉野:しぶといねぇ。みんなポンコツなんですよ。他に生きようがないんじゃないかな。だんだんシャレになんない年になってきて、根性で貫いていくしかない。やっぱりあの時信じてた仲間……仲間って言い方はクサくて嫌だけど、あの時俺の周りにいた奴ら、同類だったんだなって思いますね。今も生き方を変えないで今に至ってる。みんな、らしく生きてるなぁって思いますよ。素晴らしい。で、力尽きた奴から死んでいきますから。俺もそうするしかないだろうと思ってる。死にたいって意味じゃないよ? 生きる気満々ですけど、でもその時が来たら死ぬしかない。それはコロナとか関係なく、最初っから。

一一最悪の仮定ですけど、たとえばこの先5年はライブハウスでできないとなったら、吉野さんはそれでも音楽を続けていきますか?

吉野:できないならライブはやれませんね。伝染しちゃうくらいならやりませんよ。だけど音楽はやりますよ。今までずっとソロの録音をMTRでやってたんだけど、もうそんな時代じゃねぇだろうと。それでコンピュータの中にいろいろソフトを入れて。

一一logicとか?

吉野:そう。ほんとはPro Toolsを使えればいいんだろうけど、自分にはlogicで十分です。まだチンプンカンプンですけど、せっかく暇なんで、勉強しながらちょっとずつ録音していこうと。それをまたゼニに変えてやろう、カツアゲのネタにしてやろうとは思ってますよ。

一一いいですね。楽しみです。

吉野:表現形態が変わっても、音楽自体がなくなるわけじゃないし、人間が人間じゃなくなるわけじゃないから。まぁデジタル化なんつって世の中いろいろ進んでますけど、人間自体はデジタルじゃない、血と骨でできてますからね。血と骨からできあがった考え方をしてるんだし、人生そのものはアナログなんですよ。その事実がある限り、まだ、生きてく価値は見いだせるかなと個人的に思ってます。そりゃだいぶ絶望してますけど、ギターは鳴るもん。いい音で鳴りますよ。で、生きてるってことはハッキリしてるから、それを少しずつ形にしていくことしか、やることがない。だったらシンプルにそれに従って生きていくだけだって、改めて思うかな。もともとそうだったし、これからもそうなだけです。

2020.06.26

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