Comeback My Daughters Special Interview
バンドのメイン・ソングライター、高本和英による『Outta Here』全曲解説の後編。客観的な視点も交え、作ったという前半の曲とは逆に自分達のやりたいことをとことん反映させた、ある意味、より濃いとも言える「henji ha iranai」からラストの「See you later alligator」まで、前編同様、曲にまつわる諸々を語ってもらった。前後編を通して伝わってくるのは、自分が大の音楽ファンであることをいつも忘れずに自分らしい曲作りに臨んでいる一人のソングライター(とその仲間達)の純粋な想いだ。
敢えてベタにカリブっぽい感じにしたら、 「こいつらヘンタイなんじゃないか」って思ってもらえると考えたんですよ(笑)
――6曲目の「henji ha iranai」はローマ字表記ですけど、タイトルが日本語ですね。これまで日本語のタイトルってなかったですよね。
高本 なかったですね。ビートルズの日本盤の帯(に書かれているタイトル)みたいにしたかったんですよ。「返事はいらないビックリマーク」みたいな(笑)。最初、「返事はいらない」を英訳して、近い意味の言葉にしたんですけど、思っていた雰囲気が出なかった。それでローマ字表記にして、「henji ha iranai」って敢えて「ha」にしてみたら、僕が考えてた世界観に近づいたんです。
――確かに「返事はいらない」って言葉の響きが昔の洋楽の邦題っぽいですよね。
高本 そういう感じを狙いました。帯っぽい感じをやりたかったんですよ。
――この曲はCHUN2さんのスライド・ギターが大活躍していますね。
高本 「Slow down」と考え方が似てるんですけど、ボブ・ディランをはじめとする60年代のフォークの人達とか、そういう人達に影響を与えたエリザベス・コットンとか。 [ ↗ ]
――エリザベス・コットン!
高本 アメリカの民謡って言うんですか。多くの人達から親しまれている音楽。そういう音楽って展開があまりないじゃないですか。イントロと歌が入って、だいたいそのワンフレーズで、もう十分その曲の良さが伝わる。そして、それが繰り返されてフェイドアウトしていくっていうのがすごく好きで……好きなものがヘンですね(笑)。
――(笑)いや、そんなことは全然ないと思いますよ。
高本 「henji ha iranai」は同じことをずっとやるんだけど、同じことを繰り返すたびに演奏する人間が変わってったらおもしろいだろうなっていうのがそもそものアイディアなんです。以前、ウィルコのライヴで、ヴォーカルがアコースティック・ギターを弾きながら歌ってるとき、突然、照明が落ちて、ドラムがクラスト(コア)のパターンみたいなリズムを叩きだしたと思ったら、ギターもノイズだけになってしまって……でも、ヴォーカルはそれを完全に無視して、ずっと弾き語りを続けてる(笑)。そして、それがぴたっと止まってシンプルな演奏に戻るんですけど、またギターとドラムが突然狂い出す。それに衝撃を受けて、たとえば、僕が淡々と歌ってるバックで誰かが突然興奮するみたいな曲をやってみたいと思って、「henji ha iranai」を作ってみました。こういうの楽しいですね。始まったときは同じことをやっていたのが段々、分かれてっちゃうみたいなアレンジって。


――途中、「uno, dos, tres」ってスペイン語でカウントするところがいいですね。
高本 異国の雰囲気ですね。「henji ha iranai」の「ha iranai」って字面がちょっと異国っぽいんで(笑)。
――後ろで鳴っているピアノもラグタイム風で、いい感じですね。次の「Lavender」もトラッド・フォークっぽく始まったところに跳ねるドラムが加わって、最後はラテンと言うのかアフロと言うのか、すごい展開をしますね(笑)。
高本 「Slow down」と同じで、この曲を普通に終らせずに、聴いた人達が「なんで?!」って思うには、どうすればいいかっていうのも曲を作る時のテーマでした。最後、敢えてベタにカリブっぽい感じにしたら、「こいつらヘンタイなんじゃないか」って思ってもらえると考えたんですよ(笑)。その最後のパートを生かすために、その前をできるだけシンプルに真面目な曲にしようというのを心がけました。夏をイメージした曲なんですよ。ラベンダーの香りがすごく好きなんですけど、ラベンダーが夏の花だと知って……。
――え、そうなんですか。
高本 何かで読んだんですけど、冬っぽいイメージがあったんで、へぇって。トマトが春野菜だって知ったときぐらいびっくりしたんですよ。
――え、トマトって夏じゃないんですか?
高本 今(5月)らしいですよ。 [ ↗ ]
――知らなかった……。
高本 その感じなんですよ(笑)。ラベンダー畑って言うと、北海道じゃないですか。それで寒いイメージがあったんですけど、あ、夏なんだって。その驚きを、ひねくれた展開に合わせて、「Lavender」にしました(笑)。
――「木の枝が次々に折れて/あっという間に一本の橋になる/僕達はそこから一斉に飛び込む」という、これは訳詞なんですけど、出だしの歌詞がいいですよね。頭の中に映像がぱーっと浮かびました。
高本 実際、歌詞を書くとき、そういうことがあるんです。ギターを弾きながらイメージした景色を言葉にしていくことがあるんですけど、この曲はまさにそれ。題材がラベンダーと決まってたので、僕の中でのラベンダー遊びをイメージしたらそういう感じになったんですよ。


「carpenteria」は歌詞を、ぜひ聴いてほしいですね。 歌詞にはちゃんと意味があるんです
――次の「carpenteria」は、ラグタイムっぽいゆったりした曲調がラヴィン・スプーンフルの「デイドリーム」っぽいと思いました。
高本 ああ(笑)。これはジョナサン・リッチマンみたいな感じを出したくて。
――カーペンテリアって場所は本当にあるんですか?
高本 カルフォルニアに本当にあります。夕日がきれいなところらしいです。行ったことはないんですけど(笑)。この曲は歌詞を、ぜひ聴いてほしいですね。ひょっとしたら、この曲の歌詞と雰囲気から「夏が好きなだけでしょ?」って思われるかもしれないけど(笑)、歌詞にはちゃんと意味があるんですよ。僕、福岡出身なんですけど、高校に通ってた頃、海辺のゴルフ場の横にある山から見える景色がカリフォルニアみたいだっていうのが僕達の間で流行ったんですよ。もちろん、僕らが言い出したわけではないんでしょうけど、僕らの中では、自分達だけの聖地と言うか、ここを知ってるのは僕達だけ。こんな場所を知ってるなんて俺達ぜいたくだねって。そんな気分になってたとき、聴こえていたのは、こういう音楽だったなってそういう曲なんですよ。
――美しい思い出ですね。
高本 それをそのまま書きました。その場所に今も行けるかどうかはわからないですけど。 [ ↗ ]
――「Strange Boy」は「Slow down」以降の流れを踏襲した、うきうきするようなロックンロールですね。
高本 これはローファイっぽいと言うか、最近のインディー・ロックの少しリヴァーブっぽい感じと言うか。僕もそういう音楽はすごく好きだし、今の新しいインディー・シーンに夢中になってる若い子達って、勝手な解釈ですけど、昔、エモに夢中になって7インチを買いあさってた頃の俺達に近いよねって。それで、僕らでもぐっと来るような今っぽいインディー・ロックを、僕らが僕らなりのやり方でやったらどうなるだろうって。そんなことを意識して、はっきりしたサビをつけたり、パワー・ポップと言うか、ビーチ・ボーイズっぽいコーラスをつけたりしつつ作ったんですけど、染まらないように心がけたぶん難しかったです。
――最近のインディー・ロックって言うと、どんなバンドですか?
高本 この曲に関して言うと、ウッズとかベスト・コーストとか。女の子がヴォーカルを取るバンドが最近、アメリカのインディーだと多いと思うんですけど、オールディーズ風の曲を、全然上手じゃないんだけど、雰囲気もので聴かせる人達って多いじゃないですか。
――ヴィヴィアン・ガールズとか?
高本 そうですね。日本の音楽シーンではまだ中心にはなってないけど、すごくコアなファンがいて、10代とか20代とかの子達がそういう音楽を求めているその気持ちはよくわかるんですよ。そういうのを僕達は、おっさん感覚でと言うか(笑)、そういうインディー・バンドに影響を与えたバンドのほうが好きだけど、敢えて僕達がトライしてみたら絶対、同じものにはならないだろうって、そのバランス感覚を楽しんだり、意地になったりしながらやってみました。おじさん達がやってみたら、違うものになっちゃったみたいなものを、「Strange Boys」では目指したんですよ(笑)。


――まだ、おじさんって言うほどの年齢ではないじゃないですか(笑)。
高本 まぁ、そうなんですけど、でも、10代とか20代とかの子達に比べたら(笑)。
過去のいい部分を背負ったうえで、長く楽しく続けていくためには、 ろくでもないこととは決別していかなきゃいけない
――10曲目の「Always on your side」は、ぜひライヴで聴いてみたいです。
高本 これは、今回一番やってみたかったと言うか、自分の中で一番、カムバックで表現してみたかったことと言うか。
――ヴォーカルとアコースティック・ギターだけで前半、ひっぱったあと、途中、テンポがアップして、それがまたミッド・テンポに戻るというなかなか凝った構成になっていますね。
高本 3部構成ですね。アルバムの曲がほぼ出揃った時に作った曲なんですけど、演奏リードの曲が多かったんで、この曲は歌リードでやってみたかった。それと、今回、アルバムのテーマの一つにコーラスをたくさん入れたいというのもあって、コーラスがたくさん入ってます。こういうアコースティックで始まったところにバンドがインして、そのまま終るっていうので、歌が沢山入っているバンドってあまり日本にはいないんで、こういう曲はずっとやってみたいと思ってました。すごく真面目に作りましたね。シンプルにしたいと思いながら、こういう曲ってどうしても展開を作ろうとしちゃうんですよ。だから、そこは自分で堪えながら作りました。 [ ↗ ]
――最後にアコーディオンが入っていますね?
高本 ストリングスと同じで、それもキーボードなんですけど、ベイルートのようなトラディショナルな感じを狙ってみたんですよ。この曲、バンジョーが入ってるんで、そのバンジョーと合わせて。僕の中のイメージでは、はかない、壮大な曲にしたかったんです。
――そう言えば、ベイルートも異国情緒がありますね。
高本 すごく好きなんですよ。
――最近、アメリカのインディー・バンドって異国情緒を漂わせるバンドって多くないですか?
高本 多いですね。ただ、僕はビートルズとかビーチ・ボーイズとかみたいだなって思っちゃうんです。まぁ、僕の勝手な解釈なんですけど、ビートルズとかビーチ・ボーイズとかの今のヴァージョン。いろいろトライしてたじゃないですか、70年代のバンドって。ニール・ヤングもそうだった。ニール・ヤングも時代によって、その時代の要素が入ったりするのが、後追いの僕達にはとてもステキで。でも、ニール・ヤングの場合、芯が強すぎて流行を追ってるようには全然聴こえないんですけどね(笑)。


――そうですね。時代にすり寄ってもとんでもないことになりますからね。
高本 そういうのもかっこいいなって。時代の音を取り入れてみるけど、結局、なんじゃそれって感じになりたいんです。今はこれ、次はこれって決められないぐらい好きな音楽がいろいろありすぎるから、それだったらその都度その都度ひとつに決めるよりもいろいろな音楽を、自分なりに解釈してやったほうがおもしろいし、後々、自分達で聴いてもおもしろいだろうって思うんですよ。
――最後の「See you later alligator」はアルバムの最後を締めくくるにふさわしい、本当に楽しい曲ですね。
高本 トラディショナルなフォーク・ジャンボリーと言うか、バーベキューをイメージしました(笑)。
――演奏が始まったら延々、繰り返し繰り返しで、いつ演奏が終るのかわからない感じが楽しくていいですね。
高本 最後の曲なんで、これもいろいろ展開させたり、ヒネリを加えたりせず、最後まで押し通しました(笑)。 [ ↗ ]
――この曲は演奏していても楽しいのでは?
高本 楽しいですね。なんかフワフワしちゃいます(笑)。
――勝手な想像なんですけど、演奏しながら、「誰かそろそろ止めろよ」ってメンバーが合図しあっている光景が浮かぶんですよね(笑)。
高本 そうですね。いつかライヴでやってみたいですね、30分ぐらい(笑)。
――ところで、『Outta Here』というアルバムのタイトルに込めた意味とか思いとかは、どういったことなんですか?
高本 『Outta Here』って映画とかでよく耳にするセリフなんですけど。まぁ、これも皮肉ですよ。このアルバムをきっかけに僕達がどこかに行ってしまうわけではないってことは、アルバムを聴いてもらえればわかってもらえると思うんですけど、、「Yours Truly」と一緒で、でも俺達はあきらめてないよ、ってことを思いながらそういうタイトルにするっていうひねくれた感じです。
――ああ、俺達はどこにも行かないぞ、と。
高本 それと、『Outta Here』を意味どおりに受け取るんであれば、決別ですね。過去のいい部分を背負ったうえで、長く楽しく続けていくためには、ろくでもないこととは決別していかなきゃいけないなって。
――ろくでもないこと、ですか?
高本 ええ。自分達が好きな音楽が一番だと思ってるなら、自分達がやってることをメインストリームにすり寄せる必要なんてないわけだから。だからこそ、僕らはインディーで活動してるんだし、この際、そういうのとはおさらばしようと思って。僕らは自分達が信じているものが世界で一番美しいってわかってるんで。
(つづく)
インタビュー◎山口智男