お客さんにとっていかなる理由もキャンセルの言い訳にならないのは、サージもオレも重々承知している。しかし、フルタイムの仕事を2つ抱えた40歳目前の男が、なんとかしようと右往左往した事実は分かって欲しい。
これを「闘っていた」と言わずして、何と言おう…。オレは他に適当な言葉を見つけ出せない。
その「Going South ツアー」の渋谷公演をキャンセルせざるを得なくなった事が、おそらくサージの気持ちに変化をもたらしたのだろう…。
4月のある夜、サージの家の近くまで車を走らせ、オレ達2人は深夜のファミレスで話し合いをした。言われる事は分かっていた。事実、話し合い自体は、ほんの短い時間で合意に達した。
サージ 「オレはバンドを去るべきだと思うんだ…。」
オレ 「そうだね。…同意するよ。」
これだけの会話だが、その背景には「お互いがお互いの気持ち、生活、人生を深く理解し合っている」事がキチンとある、男と男の真正面から向き合った会話だという事を理解して欲しい。
オレは、サージを失う事が怖かった。しかし、引き止める権利は、オレには無い。オレは「Ken Yokoyama」なんて自分の名前を冠してやっている以上、自分中心という軸をブラしたくない。それはどのメンバーも分かっている事だ。去ろうとする者を、追うワケにはいかない。…イヤ、場合によっては追うだろう。しかし、サージを追うワケにはいかない。何故なら、彼には彼の人生があり、音楽やバンドとの心地よい距離感がある事を、オレは痛切に知っている。
サージにとって今、Ken Band と仕事のバランスが、全然心地良いものじゃなくなってきているのだ。これは音楽の問題じゃなく、人生の問題なんだ。どちらか一つを選ばないと、何も楽しめないところまで来てしまっている。
先述したように、もしオレ達がハタチそこそこだったら、状況は全然違ってくる。しかし重ねて言うが、オレ達は家庭と仕事を持った、40歳目前の男だ。そんな男の選択に、誰も口を挟んじゃいけない。
もしキミが若者で、この話を読んで「勿体無い」とか「パンチねぇ」とか思うんだったら、それは間違っている。歳を取ると、若い時には考えもしなかったような思考をするようになるのだ。誰だってそうなる。これはキミの頭の片隅に置いておいて損は無い。
話を合意した後、実際にいつまで出来るのか話をした。まぁ「いつまでに辞めなきゃいけない」とかデッドラインがあるワケじゃないので、いつでも良いのだが、区切りは付けなければいけない。その時点で8月の北海道でのライブまで決まっていたので、そこまではやりたいと、サージは言った。
そしてオレ達はファミレスを出てブラブラ歩きながら、いつもの様に冗談の言い合い、5分で戻れるところを30分かけて笑いながら戻った。
日を改めて、オレ達はバンドで話し合った。「サージの『サヨナラ・ツアー』をしよう」。話はそっちの方向に展開し、急遽ツアー組みを始めた。10月に3週間のツアーをするコトになったのだが、サージは1年以上分の有給休暇を全部使って、フルで最後の旅をすると言う。それが冒頭の「Ciao Baby ツアー」だ。「Ciao Baby」とは訳すと、「あばよ、ベイビー」といったところか。実にサージのラスト・ツアーにピッタリなネーミングだ。
話は少し遡るが、脱退が決まった後もオレ達はツアーし続けた。「Saturday Night Hay Fever ツアー」、「The Rags To Riches ツアー U」…。ステージ上でサージを見るたびに、「あぁ、あと何本…」、早くもオレはサージを恋しがっている。
ある日の楽屋で、オレは話した。「サージ、オレはもう既にお前が恋しいよ。」
サージは「ケンは『サージを失うのが怖い』って言うけどさ、オレはどこにも行かないぜ。バンドからは離れるけど、お前から去るワケじゃない。」と言って、ニッコリ笑った。
その通り。
「別れ」とは書いたが、本当の意味での別れじゃない。
むしろコレでスッキリして、またお互いを尊重し合える。
DVD「Backstage Pass」のインタビューでも話してるが、オレとサージは兄弟だ。見かけは大と小だが、肌の色は違うが、オレ達は双子だ。一緒にバンドができなくなったくらいで、それがオレ達の関係を全部おしまいにしてしまうワケじゃない。寂しいのはもちろんだけど。
サージは音楽との心地良い距離感を見つけ出せれば、また誰かとバンドを始めるだろう。その時にサポートできたり、一緒にライブが出来たらこんなに楽しいコトはないじゃないか。
「Ciao Baby ツアー」、オレも思い切り楽しみに行くので、ご縁がある方は是非、会いに来てもらいたい。
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