H : …何故偏見があるようなことをするかっていうと、本能だからなんだよ。装飾本能…、威嚇したい本能…。悪い言い方だけど、馬鹿で物を理解する能力のない人間で、刺青知らない人間だったら、彫ろうと思わないよね。
K : この文章を読む人の中には、もう既に刺青を入れている者もいるだろうし、これから彫りたいと思っている者も多くいると思うんですよ。彼らに…先生から言えることってあります?…ボクは何で先生にお話を聞きたいかっていうと、何度もここに通ってお話していく中で「金言」がいっぱいあるんですよ。「ボクと全く違った生き方をしているのに、ボクにはこの人の言いたいことが分かる」って思ったんですよ。
H : そうか…。これから彫ろうっていう人には、…本当に良く考えてやってもらいたいね。人の真似は…もう彫る事自体が真似なんだけどね。オレだって人の真似して彫ってんだから。でもその真似をする前提として、良く自分の将来だとか考えて、全てのものを考えた上でやって、…やったら消そうとするような後悔しないことだね。後になって消そうっていうのは、そこの決心が甘いからだから。自殺しようとしてさ、ビルの屋上から飛び降りて。飛び降りた瞬間に止めようっていったって出来ないんだから。もう死ぬしかないよ(笑)。それと同じとは言わないけどさ、それくらいやる前にちゃんと考えるっていうことだね。絶対後悔しないように。…まぁ、後になって自分が気に入らない事が起こってくるのは仕方ないのよ。知識が最初はないわけだからね。物事っていうのは、後で段々知識がついてくるからさ。それはどんなことでも同じだから。最初は失敗しますよ、そりゃ。
K : ボクもそうですしね。初めて先生に会った時、「何だ、君の体は彫り散らかしてあるな」って言われましたし(笑)。自分では失敗だとは思ってないですけど。
H : その失敗を消しちゃって、過去の物を失くしちゃうってしないことだね。それはそれで自分の思い出としてね。こういうことをしちゃマズかったって、一生の烙印として持っていて欲しい。安っぽく彫ったり消したりしないでさ、もっと大事にして欲しいな。儒教の教えほど大袈裟なもんじゃないけど、「親からもらった体だ」ってことを考えてさ。…で少なくとも、それに対する誇りがあったら、一回やったものを消すとか出来ないと思う。大袈裟に考えて、刺青彫ったことが親に対する親不孝だとしたら、それを消すことは二重の親不孝だ。…親不孝は一生背負ってくべきだよ。それくらいの覚悟がないと。…決してこんなもの、いいものとは思ってないよ、オレは。でも世の中に存在する以上はね、良い物を自分でよく考えた上で、後悔しないように。
K : ボクは…道徳的に良いのかどうかは分からないし、それは人それぞれあるでしょうけど、ボクは人に対して「刺青好きなんだよな」って言えるものがあるんですよ。
H : そこが大事なんだよ。自分の人生はね、他人のものじゃないからさ。自分のものだから。安岡 正篤(やすおか まさひろ)っていう国学者の、歴代天皇のご意見番って言われた人がいるんだけど、その人の言葉で「人間は環境に左右されちゃいけない。環境は人間が作るもんだ。」、…そこなんだよ。
K : なるほど。分かります。
H : そこが明治の人間の気骨だよね。「朱に交われば赤くなる」って言うけど、朱に交わっても赤くなっちゃいけない。白くする力が欲しいんだよ。…まぁ刺青をそのくらいちゃんと大事に見れる、そういう見方できる人は、何でもちゃんとできるよ。
(2008年4月、横浜・伊勢町の仕事場に於いて)
やはり、結局「生き方」の話になった。職人は一つのコトを何十年も続けていると、そこに普遍的な人生哲学を見る。彫よし氏は、正しく「職人」だ。だから先生と話をするのは、いつでも楽しい。話題が何であろうと、必ず得るものがある。
「長く続ける」とは、つまり、そういうコトなのだ。
話を変えよう。オレも何年も前から先生の名前は知っていた。しかし、実際に先生が彫った刺青を目の当たりにしたのは、何を隠そう、サージの背中だった。
サージと日本で再会を果たしたのは2003年6月、No Use For A Name の初来日の楽屋でだった。その時点でサージは1年ほど日本に住んでいて、背中はまだ筋彫りの途中だった。その後バンドを一緒に組み、背中が進むたびにスタジオで見せてもらった。そして豪快な構図、繊細な線や色使いに圧倒されていった。
その頃のオレは、小物のタトゥーが7〜8個散らばっている状態で、しかも刺青熱は一旦落ち着いていた。しかしサージの背中が完成に近づくにつれ、またオレの刺青熱も再燃してしまった。興味深いもので、外国人のサージに「日本伝統刺青」の魅力を教えてもらったわけだ。
ここで、オレの愛する刺青男、オレの刺青熱に再び火を点けた男、オレと三代目彫よし氏を結んでくれた男、サージのインタビューも掲載したい。
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